「音楽を読んでみた、小説を聴いてみた」をテーマに、ひとつの世界を小説と音楽で表現し、立体的に楽しむエンタテインメント・プロジェクト【オトトモジ】。その第3弾として刊行されたのが、此見えこさんの『今夜、死にたいきみは、明日を歌う』です。

家庭にも学校にも居場所がなく、生きることにしんどさを感じる高校生あかりを中心に、それぞれに苦悩を抱える高校生たちの物語。中高生から圧倒的支持を受ける注目の作家である此見さんによる青春群像劇が、シンガーソングライター・灯橙あかさんの楽曲『今夜、死にたいと思った。だから、歌いたいと願った。』とともに胸に響きます。

発売されたばかりのこの新作について、此見さんにお話を伺いました。

灯橙あかさんの歌声を聴いて、歌が好きな女の子、そして彼女の歌声に影響を受ける人たちの物語が書きたいと思いました

――今回の『今夜、死にたいきみは、明日を歌う』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。

動画投稿サイトで歌い手として活動している女子高生を中心とした、高校生たちの青春群像劇です。

章ごとに主人公が代わる短編連作という形で、それぞれタイプの違う五人の高校生が登場します。

劣等感や嫉妬心など、ままならないことに彼らが悩みながらも、一歩踏み出していく姿を描きました。

――この作品が生まれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。

音楽とのコラボ企画ということだったので、音楽が関連した物語にしたいとまず思いました。

また、コラボしてくださる灯橙あかさんの素敵な歌声を聴いていたら、歌が好きな女の子、そして彼女の歌声に影響を受ける人たちの物語が書きたいと思いました。

そこになにか現代らしい要素も入れたくて、動画投稿サイト、歌い手という要素を取り入れました。

はじめて挑戦する短編連作だったため、ひとつひとつの物語を短くまとめるのが難しかったです

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。

普段は10万字程度の長編を書いており、今作がはじめて挑戦する短編連作だったため、ひとつひとつの物語を短くまとめるのが難しかったです。

気づけば文字数オーバーしてしまい、書き終えたあとにだいぶ削ったりもしました。

そのため構想にはあったけど書けなかったエピソードもあるのですが、その分本当に書きたい部分だけを厳選し、ぎゅっと詰め込めたと思います。

――本作は小説の世界観を題材に音楽を制作する【オトトモジ】プロジェクトの作品として、灯橙あかさんによる楽曲『今夜、死にたいと思った。だから、歌いたいと願った。』が発表されていますが、ご自身の小説をイメージした楽曲が作られた感想、また楽曲についての感想などをお聞かせください。

涙が出るほどうれしかったです。

灯橙さんの『灯』という曲を聴いたときに衝撃を受けて、こんな素敵なアーティストさんがコラボしてくださるのか……! と夢のようでした。

完成した楽曲は期待以上に素晴らしく、大事な宝物になりました。

ポップで心地よいメロディーに、小説の内容を大事にしてくださっている歌詞に、なによりそれを歌う灯橙さんの透き通った歌声が本当に素敵で。

心にまっすぐに刺さる歌でした。

同じように悩んでいる中高生の方にはもちろん、かつて悩んだことのある大人の方にもぜひ読んでいただきたいです

――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。

作中の登場人物が抱える劣等感や友人関係の悩みは、今も昔も変わらず、多くの学生が抱えているものではないかと思います。

今同じように悩んでいる中高生の方にはもちろん、かつて悩んだことのある大人の方にもぜひ読んでいただきたいです。

五人の主人公の中に、きっと自分と似ている人物が見つかるのではないかと思います。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

青春時代のモヤモヤやきらめきを目いっぱい詰め込んでみました。

素敵な楽曲といっしょに、ぜひ聴いて、読んで、楽しんでいただけたらうれしいです。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

フレンチトーストがめちゃくちゃおいしく作れたことです。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

なにかしらこじらせた人物を書くのが好きで、そういう人たちの話ばっかり書いている気がします。

いちばん付き合いの長い編集者さんからは「それが持ち味」と言っていただけたので、これからもそんな感じで書き続けていけたらいいなと思います。

Q:おすすめの本を教えてください!

■『西の魔女が死んだ』梨木香歩(新潮社)

小学生の頃に出会ってからずっと、いちばん好きな本を訊かれたらこの本と答えてきました。

今も心が疲れたときは、自然とこの本を開いて、おばあちゃんの優しい言葉を読み返しています。

■『奇跡の人』原田マハ(双葉社)

現時点での、私史上読書中もっとも泣いた本です。

決してあきらめず、精いっぱい生きている彼女たちの強さに、何度も何度も涙があふれました。

■『少女』湊かなえ(双葉社)

湊かなえ先生の作品が大好きなのですが、中でもこの『少女』が圧倒的にいちばん好きです。

ブラックなのに爽やかで、点と点がどんどんつながっていくさまが見事でした。


此見えこさん最新作『今夜、死にたいきみは、明日を歌う』

『今夜、死にたいきみは、明日を歌う』(此見えこ) 双葉社
 発売:2023年10月10日 価格:1,430円(税込)

著者プロフィール

此見えこ(コノミ・エコ)

2020年に「エブリスタ小説大賞×スターツ出版文庫大賞青春部門」大賞を受賞し、『きみが明日、この世界から消える前に』でデビュー。同作のスピンオフとして本年発表された『きみが明日、この世界から消えた後に』と合わせ、16万部を超えるヒットを記録している。その他の著書に『今夜、きみの涙は僕の瞬く星になる』『僕を残して、君のいない春がくる』『この雨がやむまで、きみは優しい噓をつく』があるほか、コミック『僕の彼女は僕のことが好きじゃない』では原作を担当している。10月27日には新作『きみは僕の夜に閃く花火だった』も刊行予定。

(Visited 315 times, 1 visits today)