お笑い芸人であると同時に、書店での勤務を続ける【現役書店員芸人】として知られるカモシダせぶんさん。芸能界随一の読書通とも言われるその圧倒的な知識で、ご自身のブログはもちろんテレビ番組や雑誌などのメディアで数多くの書籍情報やその面白さを発信し続けてきたカモシダせぶんさんが、遂に「面白い物語」を発信する側に回りました! 発売されたばかりの『探偵はパシられる』で、小説家デビューを飾ったのです!

主人公は、番長に心酔するあまり自ら「パシリ」を買って出た高校生・太朗。番長の使いで校内・外を走り回る彼が、行く先々で巻き込まれるトラブルの裏を見抜き、鮮やかに解決する姿をコメディタッチで描いた日常系ミステリとなっています。

異色の「高校生探偵」を生み出したカモシダせぶんさんにお話を伺ってみました!

主人公の太朗は皆さんがきっと読んだことがない最弱の探偵であり、読んだことがない最強のパシリだと思います

――今回の『探偵はパシられる』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。

学生が主人公の人の死なないミステリ連作短編集です。一番の特徴は謎を解く主人公「岡部太朗」が【パシリ】であること。通っているN高校で最強の番長、丸木大也の下にいる見た目よわよわの彼が様々な出来事に遭遇し、その出来事の裏に潜んでいる真実を暴いていきます。

全部で9つの話が収録されています。一つ一つの話がサクッと読める長さの短編。芸人が書いているので笑いどころもあり、ミステリを今まで読んでない方にも入門としてオススメです。

各話のタイトルも「ファーストカツアゲ」「最後のあんパン」「消えたメリケン」「ヤンキー、空に還る」などパシリ・番長感満載です。

主人公の太朗は皆さんがきっと読んだことがない最弱の探偵であり、読んだことがない最強のパシリだと思いますし、令和に現れた古臭い「番長」丸木も予想外の行動を起こしますので是非とも読んでほしいです。

――この作品が生まれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。

元々自分がやっていたコントで最も登場してるキャラが「パシリ」でパシリネタだけでも40本あったので、小説を書くなら一番書き慣れてるパシリの話かなと。また僕は『金田一少年の事件簿』『名探偵コナン』『鴨乃橋ロンの禁断推理』などミステリ漫画、アニメが大好きで(この3つとも原作、アニメは全話履修してます)小説も一番読んでいるジャンルがミステリなので挑戦しようと決めました。

太田紫織先生の小説『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』シリーズの影響も強いです。地方×学生×ミステリの正道で、かつキャラクターの色もしっかりあり、話の明暗も分かりやすいのであぁいうものが書ければなと。

自分のファンの方々だけに向けてではなく、逆に自分の名刺になるように、物凄く丁寧に書きました

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。

初めての小説でしたので、とにかく書き上げられるのか、途中でスランプが来るんじゃないのかと不安で仕方なかったです。あまりの恐怖に追い込まれて、結果初稿が締め切りの一ヶ月前にあがりました(笑)。

また、一つ一つの短編のプロットで「お話」と「トリック」両方成立しているものは良かったのですが、どちらか片方がホワホワしたまま書き始めたものは直しが多かったですね……編集さんが本当に優秀な方で何度も助けられました。

元々最初に編集さんに見せたのが「最後のあんパン」「詫び名人」という二つの話で、連作短編集にするつもりとかは無かったです。なので一冊の本にする際には繋がりを作っていく作業が増えて、一つの話だけでなく、全体としての伏線を作れたのは楽しかったです。

その中で最初に全く想定してなく書き始めたら生まれたキャラが、どんどん濃くなって他の話にも登場する。ということもあり「本当に自分のキャラって勝手に動くんだ……」とびっくりしました。

――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。

「ミステリ」ってだけで敬遠する方もいるかとは思いますが、そういう方にも読んでいただけるようにお話の難易度のバランスに気をつけました。

ミステリ初心者でも解ける話が1〜2個、逆にミステリ玄人の方でもオチが読めない話が1〜2個ある。ぐらいのバランスでまとめました。沢山の方に楽しんでいただければ。

あと僕「カモシダせぶん」のことを全く知らなくても問題ありません、というか普通に知らないと思います。

普通芸人が出す小説って売れてる人が出すものですが、僕はまさかの全く売れてない状態でこのお話が来たので、数少なすぎる自分のファンの方々だけに向けてではなく、逆に自分の名刺になるように、物凄く丁寧に書きました。是非この小説を読んで僕自身が気になった方は僕のYouTubeやライブを見に来てください。

パシリだけど未来に向かって走っている太朗を通じて、この小説が皆さんのいい逃避になれば

――初めての小説ご執筆を通して、ご自身にとっていちばん大切にしたかったことや拘りたいと思ったことをお教えください。

今回の話に限るかもしれませんが、徹底的に「自分を出さない」ようにしました。シチュエーションとかは自分の好みが入っているのですが、出てくる登場人物のモデルに自分はいません。自分が好きじゃないので。主人公の岡部太朗もパシリですが、僕とは全然違う天才肌のパシリ。

僕は小説を読む時に、脳内で登場人物を自分の友達、仕事仲間、マンガのキャラ、俳優に当てて映像化して読んでいるんですが、書く時もその方法を使って書きました。自分がお世話になった優しい先輩をモデルにしたキャラが、編集さんに褒められた時、その先輩を褒めてくれたような気がして凄く嬉しかったです。

芸人を15年以上やっていると沢山の人たちとの出会いと別れがありました。その人たちを想像してこの小説に詰め込みましたのでキャラクターが「装置」ではなく「人間」として受け入れてもらえればありがたいです。

「パシリとゲノム」という話では、ある実在した人物が出てきます。その人物の話も書きたかったので注目してほしいです。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

僕にとって本や、他のエンタメは人生での辛い出来事から逃げるために楽しんでいました。今もそれは変わりません。パシリだけど未来に向かって走っている太朗を通じて、この小説が皆さんのいい逃避になれば。そう思って書いたのでその気持ちが伝われば幸いです。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

『マイナビラフターナイト』というTBSラジオの勝ち抜きネタ番組でオンエアされたこと。(ライブの投票で勝たないとオンエアされない)

Q:ご自身はどんな小説家になりたいとお考えですか?

ひとまずは、もし許されるのであれば次も小説を出したいです。芸人と書店員の二枚看板でやってますが、三枚看板でやりたい。お笑いファンの方にも小説に興味を持ってもらえればなと。逆に小説からお笑いにも来てほしいし、そういう意味で今後もお笑いも執筆業も引き続き頑張ります。

技術の才能が足りてない分、やはり設定でどうにかしたいなと思います。これは芸人活動でも一緒ですね……。

Q:おすすめの本を教えてください!

■『インサート・コイン(ズ)』詠坂雄二(光文社)

『スーパーマリオ』『ぷよぷよ』『ドラクエIII』など超名作ゲームがそれぞれのお話の肝になっている連作ミステリ短編集。僕はゲームも読書と同じくらい好きなのでこんなに自分に刺さった小説はないです。『アメトーーク!』で詠坂先生の『5A73』を紹介させてもらったおかげでこちらの小説も重版がかかりお求めやすくなったので是非。

■『スロウハイツの神様』辻村深月(講談社)

創作者のシェアハウスを舞台とした長編。芸人をやっていて分かること、沁みることも凄く多かったので爆泣きしました。ハンバーグ屋さんの行列に並んでる時に読んでたんですが爆泣きしました。爆泣きしたまま入店して、爆泣きしたままハンバーグを頼み、爆泣きして完食しました。多分ハンバーグをよっぽど食べたかった人に見えてたと思います。ちゃんとハンバーグも美味しかったですが。『ハケンアニメ』や他の辻村作品と繋がってる人も出てくるので辻村先生お好きでしたら是非。

■『め生える』高瀬隼子(U-NEXT)

今年一番良かったです。突然世界中の大人の髪の毛がなくなるパンデミックが発生し、その日常に翻弄される人々を描いた中編。SF的な設定を芥川賞作家の高瀬先生が書かれているからこそ、物凄く純文学的な展開とオチになっているのでめちゃくちゃ面白かったです。こんなにハマったのは僕自身が薄毛だからかもしれません。女性の目線での「髪の大事さ、うっとうしさ」についても書かれているので薄毛のおじさんに限らず本当に老若男女にオススメの一冊です。


カモシダせぶんさん小説デビュー作『探偵はパシられる』

『探偵はパシられる』(カモシダせぶん) PHP研究所
 発売:2024年09月19日 価格:1,980円(税込)

著者プロフィール

カモシダせぶん

1988年、神奈川県生まれ。松竹芸能所属のお笑いコンビ「デンドロビーム」として活動する傍ら、東京都内の書店に勤務。【現役書店員芸人】として様々なメディアに登場し、数多くの書籍を紹介している。2013年に「松竹お笑いビブリオバトル」で優勝。また「Bibliobattle of the year 2023」において新人賞を受賞している。著書に『書店員芸人~僕と本屋と本とのホントの話~「売れてない芸人(金の卵)シリーズ」』(電子書籍)がある。

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