このコラムは鹿児島県在住でフリーライターとして活動する鶴田有紀さんがこれまでに出会った「本」や、「読書」にまつわる記憶を綴ったエッセイから抜粋・再構成してお贈りする短期集中連載です。(10月〜12月の第2・第4火曜日に掲載予定)
【偶然も重なったので】
大変だ。
この頃、「読みたい本が多すぎる問題」に直面している。出合わない時はパッタリなくせに、2月の『文をあたる』をかわきりに、『鯨オーケストラ』『流星シネマ』『屋根裏のチェリー』『中庭のオレンジ』『うたかたモザイク』と、まあ、出合うであう。
さらに昨日は、大好きな作家さんの作品も掲載されている、短編小説集『ほろよい読書』の第2弾『ほろよい読書 おかわり』が出ると知り、小躍りしそうなほど喜んだ。でもその前に、『水中の哲学者たち』と『黒猫を飼い始めた』も読んでおきたい。
……という風に、「今年の運を使い果たした?」と疑いたくなるほど、立て続けに素敵な本と出合えたため大人げなく浮かれている。
しかし、だからといって仕事そっちのけで読書にいそしんでいるわけではない。受けた仕事は、真面目に取り組んでいる。それに今月は、普段よりご依頼が落ち着いていて比較的スケジュールを組みやすかったこともあり、少し夜更かしをして読み進めることができた。
たまたまできた空き時間と、たくさんの素敵な本とのご縁。この2つの偶然が重なった結果、本の虫になれた。
おかげで、読書中に素敵な一節を見つけた時の高揚感もたくさん味わえたし、読了後に「ふぅ」と全身の力が抜け、物語の余韻に浸りながらお気に入りの場面や描写を思い返す時間も堪能できた。
フリーランスは時間が空いている時こそ、営業や勉強に力を入れたほうが良いのかもしれない。たしかに、そういった種まきも大事だ。けれど、こういう心を潤す時間も必要だと私は思っている。
もちろん、心を潤す方法は読書以外にもたくさんある。アートでもスポーツでも、なんでもいい。心の健康につながり、自分が笑顔でいるために欠かせない物やことに浸る時間を確保する、ということが大事だ。心に余裕がないと正常な判断もできないし、大切なものを見失ってしまうから。
だから今回は、偶然も重なったことだし素敵なご縁と時間をありがたく受け入れて、営業は来月の自分に頑張ってもらおうと思う。今は、目の前の本たちとの出合いを大切にしたい。
※こちらのエッセイは、2023年4月26日に執筆したものを加筆修正しました。そのため、エッセイ内で刊行前と表記されている『ほろよい読書 おかわり』(双葉文庫)は、すでに刊行されています。
初出:鶴田有紀note「偶然も重なったので」(2023年4月26日)より
鶴田有紀プロフィール
つるだ・ゆき/1990年生まれ。鹿児島県出身・在住。販売職や事務職を経て、2020年5月1日からフリーライターとして独立。主にコラムやインタビュー、書評、エッセイを執筆する。小学館「Steenz」や朝日新聞デジタル「SDGsACTION!」をはじめ、多数媒体での執筆経験有り「最近読んだ蓮見恭子さんの著書『神戸北野メディコ・ペンナ』(ポプラ文庫)の影響で、万年筆に興味をもち、お迎えしようかなと考えています」