リアリティショーはお好きですか? 状況や課題、ときには環境も設定された「場」に集められた一般の人や新進の芸能人が、そこで生まれる人間関係や素のリアクションを見せるテレビ番組です。
特に日本では90年代の終わりごろから現れ、いまや定番の人気ジャンルとなった「恋愛リアリティショー」が人気ですよね。集まった複数の男女が恋の成立を目指し気持ちをぶつけ合う生の姿を、ハラハラしながら見守ってしまう人も少なくないのでは?
刊行されたばかりの本作『ラブ・アセンション』はそんな恋愛リアリティーショーを描いた作品です。でもそれが既存のどの番組とも違うのは、その恋愛の舞台が「軌道エレベーター」上であること。それは宇宙に飛び出した恋愛リアリティショーなのです。ひとりのセレブ男性を巡り、個性豊かな12人の美女たちの思惑が飛び交い、さらにはその中のひとりには地球外生命体が紛れていて――!?
奇想天外な「リアリティ」を生み出した十三不塔さんにお話を伺ってみました。
リアルを切り売りするリアリティショーの欺瞞と、その中に見え隠れする人間ドラマを通じて「恋とは愛とは何か」を真正面から問う作品です
――今回の『ラブ・アセンション』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。
恋愛リアリティショーの参加メンバーの中にエイリアンに寄生された女性が混じっており、セレブ男性を争奪する番組に変化とトラブルが巻き起こります。リアルを切り売りするリアリティショーの欺瞞と、その中に見え隠れする人間ドラマを通じて「恋とは愛とは何か」を真正面から問う作品です。
――この作品が生まれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。
近しい関係の方が、恋愛リアリティショーのヘビーウォッチャーで、こういったものにまったく無関心だったわたしも半ば強制的に鑑賞させられました。『時計仕掛けのオレンジ』のアレックスがされたような具合で恋愛リアリティ番組を履修した結果、洗脳は完了しました。夢中なったわたしは、ありとあらゆる同種のコンテンツを踏破し、さらに作品にまで昇華させたのです。
感動ポルノであり残酷ショーでもあるリアリティショーを題材にしていますので、わたしのようなゴシップ好きの方にはぴったりでしょう
――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。
本作は書下ろしですが、少しずつ編集者と相談しながら、執筆していきました。ただ編集者も恋愛リアリティ番組に無縁だったので、アドバイザーを探す必要がありました。私的なつてを頼ってバチェラーの参加者だった方に取材をすることができ、それが大きな指針となりました。また全体としてはもっとドギツイ表現が溢れていたところをかなりマイルドにしました。
――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。
SFファンではなく、一般小説のつもりでより多くの層の方に読んで貰えるように心がけました。とはいえSF的ロジックや用語も出てくるので、そこは読み飛ばしてもらって全然かまいません。感動ポルノであり残酷ショーでもあるリアリティショーを題材にしていますので、わたしのようなゴシップ好きの方にはぴったりでしょう。ただ、そういったものの向こうに垣間見える純粋な何かにも触れてくださればと思います。
クレージーで過剰な重心があることで、逆説的に全体として引き締まり、また秩序が生まれると考えています
――小説を書くうえで、ご自身にとっていちばん大切にしていることや拘っていることをお教えください。
キャラクターであれ世界観であれ書き方であれ、どこか狂っていることでしょうか。クレージーで過剰な重心があることで、逆説的に全体として引き締まり、また秩序が生まれると考えています。
――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。
渾身の力を振り絞った『ラブ・アセンション』をどうかよろしくお願いします。今後のプランはまだ未定ですが、ライフワークになりつつある中国歴史SFに着手しています。ちょっと前に刊行された日中競作の歴史SFアンソロジー『長安ラッパー李白』の編者大恵和実さんがとんでもない企画をぶち上げてくれました。メンバーも豪華です。ご期待ください。
またSFやヴァースノベルなどの同人活動もしています。こちらも文芸フリマなどで販売しておりますので是非ご来場のうえお手にとって下さい。
Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?
ささやかなことですが、山登りをして絶景を眺めたり、コーヒーを飲んだりしたことですね。
Q:ご自身はどんな小説家だと思われますか?
かつて純文学でデビューしたこともあって、あまりSFというジャンルに根を下ろしていないような気がします。良くも悪くもジャンルレスで、変わった角度のご依頼があるとうれしくなってしまうタイプです。ブランディングは下手かもしれないですね。もともと頭のいいタイプではないので難しいことは考えず流れのままに進んでいきます。
Q:おすすめの本を教えてください!
■『ごんたくれ』西条奈加(光文社)
江戸期の絵師の切磋琢磨、あるいは切歯扼腕が胸に迫る。名前は変えられているものの、すぐにそれとわかる実在の絵師たちの生きざまはどれもクセがあって面白い。とりわけ異端の絵師曽我蕭白をモデルにした深山箏白の姿はふてぶてしくも潔い。
■『エンジン・サマー』ジョン・クロウリー(扶桑社)
SFファンタジー。ボーイミーツガールの理想形であり絶望形。どこかカウンターカルチャー的な滅亡後の世界観も好み。
■『レベッカ』ダフネ・デュ・モーリエ(新潮社)
ヒッチコック作品の原作として名高い。重厚で古典的な輝きを放っています。何度読み返してもうっとりしてしまう。小説として完璧で、創作のお手本としてもお世話になっています。
十三不塔さん最新作『ラブ・アセンション』
発売:2024年11月20日 価格:1,078円(税込)
著者プロフィール
十三不塔(ジュウサンフトウ)
1977年、愛知県出身。2020年に「第8回ハヤカワSFコンテスト」優秀賞受賞作『ヴィンダウス・エンジン』を刊行。2022年刊行のアンソロジー『2084年のSF』にも参加している(収録作品「至聖所」)。