7月14日に発表が迫る「第165回芥川龍之介賞」(通称「芥川賞」)。
大正から昭和初期に活動した文豪を称えその名を冠したこの賞は、同時代に功績を残した大衆文学作家の名を取った「直木三十五賞」(通称「直木賞」)とともに1935年に創設され、日本で最も注目を集める文学賞と言っても過言ではないでしょう。
純文学の新人に与えられるこの芥川賞、第165回となる今回は2021年上半期(前年12月~本年5月)に発表された中~短編作品が選考対象となっています。
その選考基準から、芥川賞候補作品は受賞発表の時点では文芸誌等への掲載のみで未書籍化ということも少なくありません。実際、候補作としてノミネートされながら、いまだに書籍化されていない作品もあるくらいなのですが、今回は発表前日までにすべての候補作が書籍として出揃う形となりました。
この5作品は「小説」という文章表現のなかでも、とりわけ「文章芸術」としての価値を問われる純文学の「現在」を象徴する作品と評された小説と言えるでしょう。この機会に手に取ってみれば、あなたの読書ライフがいっそう豊かなものになるのではないでしょうか。

『貝に続く場所にて』(石沢麻依) 講談社
 発売:2021年07月09日 価格:1,540円(税込)

コロナ禍が影を落とす異国の街に、9年前の光景が重なり合う。静謐な祈りをこめて描く鎮魂の物語。 ドイツの学術都市に暮らす私の元に、東日本大震災で行方不明になったはずの友人が現れる。人を隔てる距離と時間を言葉で埋めてゆく、現実と記憶の肖像画。「第64回群像新人賞」受賞作品として雑誌『群像』掲載直後のノミネートとなった。

【著者プロフィール】

1980年、宮城県生まれ。2021年、「貝に続く場所にて」で「第64回群像新人文学賞」を受賞しデビュー

『氷柱の声』(くどうれいん) 講談社
 発売:2021年07月09日 価格:1,485円(税込)

語れないと思っていたこと。言葉にできなかったこと。――東日本大震災が起きたとき、伊智花は盛岡の高校生だった。それからの10年の時間をたどり、人びとの経験や思いを語る声を紡いでいく、著者初めての小説。幸い震災で大きな被害を受けることなく、「私は被災者とは言えない」と口にしながら、心の中では「被災者ではない」と思ったことはない。抱え続けた矛盾した気持ちが糸口となった一作。

【著者プロフィール】

1994年、岩手県出身。会社員として働きながら、小説、童話、エッセイ、俳句、短歌と幅広く執筆活動を行っている。樹氷同人、コスモス短歌会所属。近著に『プンスカジャム』(童話)、『水中で口笛』(歌集)、『うたうおばけ』(エッセイ)など。

『水たまりで息をする』(高瀬隼子) 集英社
 発売:2021年07月13日 価格:1,540円(税込)

ある日、夫が風呂に入らなくなったことに気づいた衣津実。夫は水が臭くて体につくと痒くなると言い、入浴を拒み続ける。彼女はペットボトルの水で体をすすぐように命じるが、そのうち夫は雨が降ると外に出て濡れて帰ってくるように。そんなとき、夫の体臭が職場で話題になっていると義母から聞かされ、「夫婦の問題」だと責められる。夫は退職し、これを機に二人は、夫がこのところ川を求めて足繁く通っていた彼女の郷里に移住する。川で水浴びをするのが夫の日課となった。豪雨の日、河川増水の警報を聞いた衣津実は、夫の姿を探すが――。

【著者プロフィール】

1988年、愛媛県生まれ。東京都在住。2019年「第43回すばる文学賞」を受賞し、受賞作『犬のかたちをしているもの』で翌年デビュー。

『オーバーヒート』(千葉雅也) 新潮社
 発売:2021年07月09日 価格:1,650円(税込)

東京から大阪に移り住み、京都で教鞭を執る哲学者。「言語は存在のクソだ!」と嘯きながら、言葉と男たちの肉体とのあいだを往復する。年下の恋人への思慕、両親の言葉、行きつけのバー、失われた生家である「大きな白い家」、折々のツイート……「僕」を取り巻く時間と人々を鮮やかに描く表題作。ハッテン場と新宿2丁目の移ろい、甦る記憶が現在を照射する川端賞受賞作「マジックミラー」を併録。

【著者プロフィール】

1978年、栃木県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論コース博士課程修了。博士(学術)。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授(2021年7月現在)。2019年に発表した初の長篇小説『デッドライン』で「第41回野間文芸新人賞」を、2020年発表の初の短篇「マジックミラー」は2021年に「第45回川端康成文学賞」を受賞。近著に『アメリカ紀行』『意味がない無意味』など。

『彼岸花が咲く島』(李琴峰) 文藝春秋
 発売:2021年06月25日 価格:1,925円(税込)

その島では〈ニホン語〉と〈女語〉が話されていた。記憶を失くした少女が流れ着いたのは、ノロが統治し、男女が違う言葉を学ぶ島だった――。不思議な世界、読む愉楽に満ちた中編小説。日中翻訳者としても活動する著者。2019年の「五つ数えれば三日月が」に続き芥川賞2度目のノミネート。

【著者プロフィール】

1989年、台湾生まれ。2013年来日。早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程修了。2017年に「第60回群像新人文学賞」優秀作を受賞。改題のうえ受賞作『独り舞』でデビュー。2020年『ポラリスが降り注ぐ夜』で芸術選奨新人賞受賞。近著に『星月夜』『五つ数えれば三日月が』がある。

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