かつての同級生たちに「よかったな!」って言ってあげたいと思いました(中村)

中村:僕が思ったのは、昔のバンド小説って絶対親は出てこなかったんですよ。まあ、そりゃそうですよね。いまの、心音ちゃんの親世代の人なら「くるり」とかも聴くでしょうけど、たとえば僕の親世代は聖飢魔Ⅱとか聴かないじゃないですか。だから出てきようがないんですよ(笑)。

みあ加藤:(笑)。

中村:心音ちゃんのお父さんは僕より年下だと思いますけど、まあ、同世代として話を進めると、彼は昔、音楽が好きで音楽を演ってた。彼と同じで、たとえば僕が一緒にバンドやってた同級生たちがいまでもギター弾いてたりしたら、ムダに上手くなってるんですよ。

加藤:ムダって(笑)。

中村:それで(小説では)娘に誘われてバンドに参加するわけじゃないですか。だからかつての同級生たちに「お前ら、よかったな!」って言ってあげたいと思いました(笑)。

加藤:なんの話、これ(笑)。

みあ:(笑)。

加藤:誰の、なんの話なのかわからなくなりましたが(笑)。でも心音ちゃんのお父さんは理想的だよね。あんなお父さんがいたら嬉しい。それぞれキャラクターにモデルはいるんですか?

みあ:モデルは誰もいなくて、自分の中で創作した人物ばかりです。お父さんは、心音は内気で孤独を抱えている女の子なんだけど、家にだけは居場所があるっていう環境を作ってあげたかったので、そういう居場所を作ってくれる父親像みたいなものを意識しました。もちろん、ここまでひとりで心音を育ててきたし、父親ぶってるところもあるんですけど、ちょっと少年みたいな清らかさを持っていたり、親子ではあるけどどこか友達のようでもあり、ともすると夫婦みたいな結びつきでもあるような、なんかそういう絆が書けたらいいなっていうのは意識していました。

加藤:この作品に限らず、いつもキャラクターは完全に創作ですか? あまりモデルとかはいない感じ?

みあ:そうですね。外見に関してはときどき、自分の中で思い描いていたりするんですけど、キャラクターに関しては創作ですね。

加藤:じゃあ外見は自分の中で思い浮かべながら書いている? 「ayame.」のメンバーとかも。

みあ:ざっくりと、髪型とかそういうのは、絵に描いたりとかもするんです。描いておかないと忘れちゃうんですね。最初は髪の長いイメージで書いていたのに、途中でボブになってたりするので(笑)。だから一応、メモに外見の特徴を残しておいてから書きます。

加藤:本当かどうかわからないけど、作家には2パターンあるって聞いたことがあって、登場人物の顔や着ている洋服なんかのビジュアルを重視する人と、その人が食べている食べ物にこだわる人と。ちなみに私は完全に後者で、食べ物を決めてから書いています。

中村:その登場人物の好きな食べ物ってこと?

加藤:そう。登場人物の好きな食べ物とか、よく食べる食べ物とかを、小説に出てこなくてもあらかじめ決めてたり。だから逆に、ビジュアルは全然浮かんでなくて。

中村:人のタイプを、好きな食べ物で分けてるってこと? 分けられるの、それ。

加藤:いや、タイプを分けているわけではないんだけど、こういう人はこういうものを食べるかなあって。私も、基本的には創作なんで。

中村:「あれ、これ誰だっけな? ああ、あのカレー好きのヤツだった」って思い出すってこと?

みあ:(笑)。

加藤:そういう思い出し方でもないんだけど(笑)。単純に私は、食べ物のことを考えてるのが楽しいからやっている感じです。

みあ:初めてそういうアプローチを聞いたので、すごくビックリしました。でもあんまり……それこそ見た目とかの緻密な部分は、読者に委ねるっていうのも、自由度があって豊かさが生まれるのかも。私はけっこう、「(声色を作って)おまえの小説は行間がない!」って言われることがあって。

加藤:今のは誰の真似(笑)?

みあ:私の師匠が(笑)。だからいまの加藤さんのお話で考えさせられました。

加藤:いやいや、まったくそんなことはないと思うんですけど(笑)。でもキャラクター設定はそれぞれすごくいいなと思ってたので、完全創作っていうのを聞いてビックリしました。下敷きにした、モデルだったりエピソードだったりがあるのかなと思っていたので。

みあ:それこそ「ステキブンゲイ」さんで掲載させていただいた「サマースプリンター・ブルー」みたいな短い小説では、実際こういうこと言う人いたなとか、こういうことがあったなっていうものがベースになっていたりすることもあったんですけど、この小説に関してはほとんどそれがなかったような気がします。

加藤:書いてて楽しかった人とかいますか? やっぱり心音ちゃん?

中村:唯ちゃんとか書いてて楽しそうだなあと思いました。

みあ:そうですね、なんか女の子3人の、あの“連れ立ってる感じ”を書くのはすごく面白かったです。

加藤:ああ、鍾乳洞のところとか?

みあ:潮野(しおの)っていう架空の町を舞台にしているんですけど、モデルは長崎の海辺の町で。

加藤:長崎なんだ!

みあ:はい、一応モデルにした場所はあって、書きはじめる前に自分で行ってみたんですね。それで海とか見ながら、なんか遊ぶところはあるのかなと探してみたんですけど、鍾乳洞しかなくて(笑)。でもせっかく行ったから書いておくか、と思って。

加藤:へえ~。全編通して、方言があるのもいいですよね、会話が。特に瀬戸君の方言は、浮かんでくる感じがあります。

みあ:最初はそれこそ、本当に長崎を舞台にして書こうかなって思ってたんです。でも、どうしてもフェスを書かないと話が成立しないなって考えたときに、長崎には代表的な「Sky Jamboree」っていうフェスが

あって、あの実際のフェスをいじることはできないかなって思って。いっそ全部創作の、架空のものにしようと思って書いてました。

“物語×音楽”を上手く成立させられたときに、ものすごい力が生まれることを信じてる(みあ)

中村:ところどころ、素敵な表現があって……「好き」っていう気持ちを、主人公が“瀬戸君と一緒に「えへへ」と笑いたかった”っていうのがすごくキュンとしました。

みあ:ありがとうございます(笑)。

中村:それでギターを抱きしめるところがね、はい。最後、告白するんですけど、やっぱり告白する人が多いですよね。

みあ:私の作品が、ですか? ……ああ、でもたしかにそうかもしれない(笑)。なにか一歩を踏み出させたいと思ったときに、主人公に告白を選択させることが多いかもしれないですねえ。

加藤:最後のエピローグ的な感じで、インタビューで近況がわかるのもいいなと思いました、構成として。

みあ:ホントですか?

加藤:うん。本人だけじゃなくて周りの反応とか、そういうのがわかるようになってるのがいいなあって。

中村:曲が出てくるわけじゃないですか。この小説だったら、最終的には曲が出てくるシーンを読者もみんな待ってると思うんですよ。

みあ:はい。

中村:だから歌詞で終わるのかな、って思っていたんだけど、出てこなくて、この小説では曲が演奏されてインタビューっていう形で終わる。でも本当の楽曲が別にある。ちゃんとメロディもあって楽曲として出せるっていうのはいいですね。

7th Single『101/夜光』三月のパンタシア(ソニー・ミュージックレーベルズ)

みあ:最後に歌詞を載せるっていうのは、私も考えたんですけど。でも、今回も小説に楽曲を紐づけようって考えたときに、どういう立ち位置の曲を作るのかっていうのがまだ決めきれていなくて。実際に、この小説の中に登場する『夜光』っていうオリジナル曲を三月のパンタシアで作ってみたらどうかっていうのは、けっこう後のほうに決まったんです。書籍化で編集さんとやり取りをするようになってから……だから、言ってしまえば小説に載せるには、歌詞が間に合わなかったんです(苦笑)。

加藤:(笑)。編集さんとのやり取りでは、けっこう直したりもしたんですか?

みあ:基本的には初稿をベースにして、細かい言い回しや表現の部分での直しを。私の小説って「~なような」とか「~みたいな」っていう言葉がものすごく多いんですけど、「意識して書いている部分があるのもわかるけど、それをやりすぎると逆に読みづらいから」って、最初はもっとあってごちゃごちゃしていたのを上手く指摘してもらって削ったりしました。出版社の、プロの編集の方にガッツリついてもらったのも初めてだったので、すごく勉強になりました。

加藤:さっきホリエさんとの楽曲制作の話も出てましたけど、「曲を書いてほしいんで、小説読んでください」っていうのもすごいことですよね(笑)。

みあ:たしかに。ただホリエさんには、楽曲制作のお声がけをするっていうよりも前に、ご挨拶させていただく機会があって、それがちょうどこの小説を8割くらい書いていたときだったんですね。その時点で楽曲を紐づけたいなとは思っていたんですけど誰に書いてもらおうかとかはまだ全然決めていなかったんです。そういう段階でホリエさんとお話しする機会があって。そうしたらホリエさんが長崎のご出身っていうちょっとしたご縁があって、「実は、私はいま長崎を舞台のモデルにした小説を書いていて。バンドがモチーフになっていて。それで楽曲を作りたいと思ってるんですけど」っていうお話をしたら、すごく関心を持ってくださって。そこからはもう、すぐ小説を送りつけて(笑)。

加藤:そのエピソードが既にエモい!

みあ:いろんなご縁が重なって、発表できた作品だったなって思います。

中村:十代とか二十代の若い人にとっては、いちばん「文字表現」に触れるのって、歌詞であることも多いと思うんですね。リリックビデオ観たりだとか歌詞カード読んだりだとか。そういう人たちに読んでもらえる小説というか……。僕が若いころも、大槻ケンヂさんとかミュージシャンが小説を書いていて、そういう作品に、リアリティを感じたり、自分側の小説だな、って思ったりしたんです。あと、単純に入りやすいっていうのもあるし。みあさんの小説もそういうふうに読まれている気がします。最近はなんらかの形で音楽とリンクした小説が多くあるんですけど、そういう作品の書き手のおひとりとして、なにか思うことはありますか?

みあ:私の場合は、この作品もそうなんですけど、前提として小説と楽曲をリンクさせるうえで、たとえば小説ありきじゃないと成立しない歌詞ではダメだなって思うんですよね。それは逆もまた然りで。もちろん2つの独立した作品として作っていくんですけど、その2つが奇跡的に上手くリンクしたときに、受け取った側の心の中に広がっていく風景って、倍以上に豊かになっていく。それを届けることができる力が小説と音楽が合わさったときに生まれるんじゃないかなと思っていて。私は小説を書いてそのための楽曲を作ったときは、「小説の主題歌」っていう言い方をよくするんです。私は映画も好きなんですけど、劇中でグッとくるシーンがあって胸が熱くなったときに、さらに最後のエンドロールで流れてくる音楽に泣かされるっていうか、よりエモーショナルを突き上げられる感覚に近いというか。物語に加えて、音楽には別の角度から訴えかけることができる力があるような気がして、その“物語×音楽”というのが上手く成立させられたときに、ものすごい力が生まれるのではないかということを信じてやっているところはあります。

中村:そうですね。楽曲にも物語的・小説的な歌詞が乗っているなとも思いました。

加藤:たしかに。これからも小説を書いてその主題歌的に曲を書くスタイルは、ずっと続けていこうと考えているんですか?

みあ:そうですね。それを軸にしつつやっていこうと思っています。

中村:それはうらやましいですね。

加藤:うん、うらやましい。

中村:加藤さんも、だって作品に主題歌つけたいですよね?

加藤:主題歌つけたいよー(笑)! なにか機会があればぜひ、みあさんともぜひ一緒にお仕事させてください。

みあ:はい、ぜひご一緒させてください!

中村:『ラジオラジオラジオ!』の主題歌を俺が作ってあげましょうか?

加藤:いや、結構です!

中村:「♪ラ~ジオ~ラジオラ~ジオ~」

加藤:何回も言うけど、お断りします(笑)。

みあ:(笑)。


みあ:お聞きしたかったんですが、なにがきっかけで、音楽ファンになったんですか?

加藤:ええ、難しいですね。……ただ、私、文化というジャンルの中で、本当にこの世でいちばんすごいのは音楽とマンガだと思っていて。あとお笑いもかな……。特に音楽って、ものすごく弱っているときでも聴けるし入ってくるんですよね。人によるのかもしれないですが、小説って落ち込んでるとあまり読めないから。だから音楽に助けられることが多いんですよね。中学生ぐらいのときからずっと好きですね。

みあ:日本のロックバンドをよく聴いていたんですか? 

加藤:そうです。私は英語が全然できないので、歌詞の意味がわからないのが嫌で、洋楽はあんまり聴いてなくて。聴いたときにちゃんとわかるものが好きなんですよね。

みあ:でも私も、結局なにをいちばん聴いてるのかなと思ったときに、やっぱり歌詞なんだなって思って。もちろんサウンドから好きになる曲もあるんですけど、永く自分の中で愛することができるのって、歌詞が好きな曲だなって思ったんです。

加藤:小説もそういうところがあるんだけど、そのときどきのこちらの気持ちで変わるじゃないですか、印象が。それもすごいなあって思っていて。めっちゃ幸せな曲だと思って聴いてたけど、すごく悲しい曲かもしれないとか、その逆だったりとか。なので本当に、『夜光』もグッときました。小説を読んだあとに、「あ、あのブレスがあった」って。うらやましいと思いました、これは。

みあ:ありがとうございます。『ラジオラジオラジオ!』でポルノグラフィティの『アゲハ蝶』が出てきて、私が初めて買ったCDがポルノグラフィティだったんです。

加藤:若さを感じます(笑)。

みあ:ほかにもいろんな曲がいろんな小説の中に出てくるんですけど、どれも頭に浮かぶし、なんか十代のメンタリティに合ってる選曲が多くて。今日はそれをお伝えしたかったんです。

加藤:作品をいろいろ読んでもらえていて、とても嬉しいです。ありだとうございます。

みあ:あと加藤さんの表現の中で、男女の情感として、「こんなにそばにいるのに、いまはどうしてこんなに遠いんだろう」みたいな、“近くにいるのに遠い”っていうあのせつなさが、いろんなシチュエーションでこういう想いを抱えている人っていっぱいいるんだなって思わせてくれて。

加藤:ええ、嬉しい。ありがとうございます。ああ、でもたしかに“近くにいるけれど遠い”って、私、書きがちかもしれません、そのシチュエーション(笑)。

みあ:(笑)。でも私は「来たーー!!」って思います。

加藤:「またか」と思われてなくてよかった(笑)。


みあ(三月のパンタシア)

音楽ユニット・三月のパンタシアのボーカル。
2016年にTVアニメ『キズナイーバー』のエンディングテーマ『はじまりの速度』でメジャーデビュー。 2018年からは、みあが書き下ろす小説を軸として“音楽×小説×イラスト”を連動させた自主企画『ガールズブルー』をWeb上で展開。7月19日には、みあ初の長編小説『さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた』を刊行。同作の主題歌「夜光」を収録したシングル『101 / 夜光』も7月21日にリリースした。また小説投稿サイト「ステキブンゲイ」上では、これまで発表した楽曲の基となった小説を公開している。

■「ステキブンゲイ」みあ(三月のパンタシア)https://sutekibungei.com/users/3_phantasia
■公式サイト https://www.phantasia.jp/

最新シングル『101 / 夜光』

凛とした少女が秘める、溶け出すほどに熱い想いを描いた攻撃的なポップチューン「101」 繊細に揺らめく季節の中に立つ、少年少女の葛藤を表現した「夜光」 表情の違う2曲を表題とした、両A面シングルが完成。

・「101」作詞・作曲・編曲:じん
TVアニメ「魔法科高校の優等生」オープニングテーマ

・「夜光」作詞:みあ / ホリエアツシ 作曲:ホリエアツシ 編曲:堀江晶太
小説「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」主題歌

・「パインドロップ」作詞:みあ 作曲・ 編曲:いよわ
小説「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」
サイドストーリー「パインアメは溶けきらない」テーマ曲

小説「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」

著者:みあ(三月のパンタシア)
価格:¥1,400円(税抜)
発売:2021年7月19日(月)
発売元:幻冬舎

あらすじ
高校三年生の5月、父の仕事の都合で隣町へと引っ越してきた心音。 人付き合いが苦手で言葉がつっかえやすいことから、転入先でも孤独な日々を 送っていた。ある日海辺で、亡き母が大好きだった曲 『やさしさに包まれたなら』をギター片手にひとりで歌っていると、 突然、男性から「俺と、歌ってくれんか!」と声をかけられる。 慌てて逃げだした心音の前に、翌日、制服姿で現れた彼は、 強引に心音の手をとって駆けだす。連れていかれた先は、彼がギターを務める バンドの練習場で――!? 友情、初恋、家族、夢……。”言いたくても言えない ”思春期特有の甘くて切ない気持ちを瑞々しい筆致で描き切った、青春音楽グラフィティ。

▼主題歌「夜光」
ホリエアツシ(ストレイテナー)とみあの共作。実際に小説を読んでもらい、会話をしながら作ったという。 繊細に揺らめく季節の中に立つ、少年少女の葛藤を抱えた楽曲になっている。


加藤千恵

歌人・小説家。1983年生。北海道旭川市出身。立教大学文学部日本文学科卒業。2001年に短歌集『ハッピーアイスクリーム』でデビュー。短歌以外にも、小説、詩、エッセイ等、幅広く執筆。最新刊に、NICU(新生児特定集中治療室)を舞台とした『この場所であなたの名前を呼んだ』。

中村航

小説家。2002年『リレキショ』にて第39回文藝賞を受賞しデビュー。続く『夏休み』、『ぐるぐるまわるすべり台』は芥川賞候補となる。ベストセラーとなった『100回泣くこと』ほか、『デビクロくんの恋と魔法』、『トリガール!』等、映像化作品多数。

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