あのサークルクラッシャーが帰ってきました! 大学の文芸サークルを舞台とした激しいサークルクラッシュ劇としてロングヒットを記録している短編小説『サークルクラッシャー麻紀』に、著者の人気作『受賞第一作』を組合せた、新しい長編小説となっています。

 4月に『アドルムコ会全史』(代わりに読む人)を、6月は『Quick Japan』に「ターシルオカンポ」を発表し、いま文芸界で最も熱い男、佐川恭一さんにお話をお聞きしました。

クラッシャられた者にも、当然その後の人生がある

――『シン・サークルクラッシャー麻紀』について、これから読む方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。

 まず2017年に電子書籍で出した『サークルクラッシャー麻紀』という作品がありまして、これは京都大学の文芸サークル「ともしび」を舞台とした激しいサークルクラッシュ劇でした。ありがたいことに発表から現在にいたるまでロングヒットを記録しているのですが、『シン・サークルクラッシャー麻紀』ではその短編をもとに、私が別で電子出版していた『受賞第一作』という作家志望者を主人公とした作品を組み合わせ、登場人物たちの学生時代だけでなくさらにその先までを書いています。サークルとは得てしてクラッシュされるものですが、クラッシュされたからといってすべてが終わるわけではありません。クラッシャーにもクラッシャられた者にもその骨肉の争いに翻弄された者にも、当然その後の人生があるのです。それをぜひ目撃してもらいたいと思っています。

――本作を描こうとされたきっかけを教えていただけますでしょうか。

 まず『サークルクラッシャー麻紀』を書いたきっかけなのですが、七、八年前に作家の大滝瓶太さんらと大阪文フリに参加したことがありまして、そこで京都大学サークルクラッシュ研究会の始祖ホリィ・センさんと出会いました。彼はもう見た瞬間に只者ではないな、とわかる雰囲気を醸し出していました。そのサークル会誌もめっぽう面白くて、文フリが終わった後にみんなで飲みに行き、そこでホリィさんにサークルクラッシュについて実例も含め色々と教えていただいたのです。私はもうそれで大興奮してしまって、絶対サークルクラッシュ小説書いたる、と思いました。これでサークルクラッシュ小説を書かなければ作家をやってる意味がない、と思いました。そうして実際に書き上げたのが『サークルクラッシャー麻紀』です。これはもともと主に大学生が読む前提で書いた作品で、サークルクラッシュ同好会の会誌に載せてもらったところ予想以上に評判が良く、もっと広く受け入れられるかもしれないな、と思い後に電子書籍化したという流れです。

『シン・サークルクラッシャー麻紀』については、出版社となった破滅派の代表・高橋文樹さんと話し合う中で構想が固まっていきました。私としても2017年からの5年間で内面の変化も環境の変化もありましたし、作品中に今ならこうは書かないだろうという部分もありましたし、登場人物についてもっと掘り下げたいという気持ちもありました。『受賞第一作』と組み合わせることによって私が書きたいことを思い切り書ける形式が出来上がり、また全体を短編から長編に直していく過程の中で個々の人物と向き合うことができ、もとの物語をより強く大きくすることができたのではないかと思っています。

物語に書かされているような感覚になる

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、執筆時のエピソードをお聞かせください。

 とにかく楽しんで書くことができたので、それほど苦労したという感じはないですね。構想というか話の骨格は高橋さんとよく話し合って決めたので大筋は最初から変わっていないですが、細部は書きながらどんどん変わっていきました。本当に集中すると自分が物語を書いているのではなく物語に書かされているような感覚になる、という作家は結構いると思うんですが、やっぱりそういう状態で書いた部分は面白くなるという実感があるので、多少後始末が面倒になりそうでもそのまま書いてしまって、おかしなところは後で直すというやり方でいきました。高橋さんが見つけてくれたミスも結構あります笑

 あと、今回は高橋さんに紹介されたTrelloというタスク管理ツールを使って執筆や出版に関するスケジュールを整理しながら進めたのですが、何が終わっていて何ができていないかがわかりやすく可視化されて、やる気も出やすいので結構いいなと思いました。今後スケジュールがパツパツになったらまた使おうと思っています。出版社の皆様はぜひ僕のスケジュールをパツパツにしてください!

――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。

 自分の所属サークルがクラッシュしてしまった人にはぜひ読んでもらいたいです。あと、もし現実のサークルクラッシャーの方が読んだらどう思うのかは気になりますね。

 注目ポイントを一点挙げると、僕が小学生のときに考えた「リットルくん」の絵が途中に入っているところです。これは地元の小学校では爆発的人気を博したキャラだったんですが、ついに全国進出を成し遂げました。そのうち当時を思い出しながら漫画も描いてみたいと思っています。破滅派のアパレルショップでTシャツやパーカーなどのグッズも買えるのでぜひ!

佐川恭一は今作から入るのがオススメ

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

 4月刊行の『アドルムコ会全史』のインタビューがつい先日だったので同じような答えになってしまうのですが、やはり自分が面白いと思ったことはあらゆる枷を外して全部書くということです。お蔵入りが増えて効率は悪いかもしれませんが、小説を書くこと自体非効率的営為の極みですし、それは効率や成果ばかりを求める現実世界への抵抗であるとも言えるのではないでしょうか。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

 佐川恭一を買い揃えているという世界最高レベルの慧眼の持ち主の中には、単行本が連続で出てしまい出費が痛いという方もおられると思います。どうか無理のない範囲で応援いただければと思います。

 また、佐川恭一全く読んでないけど一冊ぐらい見てみようかなー、という方もいらっしゃると思うのですが、サークルクラッシュというキャッチーな題材を扱った今作から入るのは結構オススメです。ぜひ手に取っていただきたいです!

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

 僕は何年か前に小説すばるで『愛すべきアホどもの肖像』というコラムを連載してたんですけど、もうあんまり覚えてる人もいないだろうな、と思ってたんです。そしたらこの前、泣く子も黙る芥川賞作家・町屋良平さんから「あれは最高に面白かった!」と言っていただけて、それは本当にうれしかったですね。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

 つい最近ワクチンの副反応で倒れてる時に『バトル・ロワイアル』の映画を見直したんですけど、そこに桐山和雄っていう、人を見つけるととにかくマシンガンで殺しまくる殺人鬼が出てくるんですね。マジでひどいな〜って思って見てたんですけど、アレを対象を殺してるんじゃなくて小説にしてるんだという比喩として見ると、もしかしたら自分はあんな感じかなと思いました。

Q:おすすめの本を教えてください!

 今回は漫画を一作品紹介させてください。

『ストロボライト』(青山景、太田出版)

 作家志望の大学生浜田を主人公とした、学生時代の恋愛を主に描いた作品――と言えば平凡に聞こえるかもしれませんが、構成が非常に複雑になっています。ここで描かれている学生時代の何やかやは、すでに作家となった主人公が学生時代の元カノに七年ぶりに会うために乗った夜行電車の中で書いているテクストであり、その対面には現在の婚約者(学生時代からの知り合い)が座り過去についての補足をしてくる、という謎の状況。やがてそのテクストが現実に追いついて虚構と現実の境目が曖昧になっていくのですが、その他にもいくつも張り巡らされたメタフィクショナルな仕掛けが胸に迫る美しいラストを導きます。また個人的には、元カノの「才能なんて人の価値とは関係ないもん」VS婚約者の「浜やんから書くこと取ったら何もないじゃん!!」という価値観の対立も心にくるものがあり、何をやってても全部受け入れてくれる恋人もいいけど「佐川君が書かなくなったら終わりじゃん」とか言ってくれる恋人もいいよなあ~悩む~とか思いながら読みました。実際にはどちらも存在しないのですが……作者が若くして亡くなられたのが残念ですが、大傑作だと思います。


佐川恭一さん最新作『シン・サークルクラッシャー麻紀』

『シン・サークルクラッシャー麻紀』(佐川恭一) 破滅派
 発売:2022年06月20日 価格:2,200円(税込)

著者プロフィール

佐川恭一 (サガワ キョウイチ)

 滋賀県出身、京都大学文学部卒業。2012年『終わりなき不在』でデビュー。『無能男』(南の風社)、『ダムヤーク』(RANGAI文庫)、『舞踏会』(書肆侃侃房)、『アドルムコ会全史』(代わりに読む人)など著書多数。2019年『踊る阿呆』で第2回阿波しらさぎ文学賞受賞。

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