2016年に史上最年少で「小説すばる新人賞」を受賞しデビューした青羽悠さん。

デビュー作『星に願いを、そして手を。』以降、青春期のキャラクターたちが織りなす群像劇を中心に、その瑞々しい若さで読者を魅了してきた青羽さんが、発売されたばかりの新作『幾千年の声を聞く』でみなさんにお見せするのは、ひとつの大きな「時代」です。

世界の中心にそびえ立つ巨大な[木]。そこに集う人々の営み、生まれる歴史とそのうねり。そんな時代そのものがひとつの物語として形を成した、叙事詩を思わせるような作品。それがこの『幾千年の声を聞く』です。

その創造の翼をさらに広げ、大きな世界を描きはじめた青羽さんにお話を伺いました。

世界を知ることのダイナミズムを物語で表したいと思った

――今回の『幾千年の声を聞く』について、これから読む方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。

ある都市とその中央にある[木]の、連綿と続く歴史の物語です。[木]とは何か、そして、私たちは何者か。人々と時代を貫通するひとつの歴史から断片を5つ選び出し、そこに生きて何かを見定めようとする者たちの姿を描きました。物語の中にある奔流を感じてもらえたら嬉しいです。

――この作品が生まれたきっかけを教えていただけますでしょうか。

自分の周辺を離れてちゃんとしたフィクションを書くということが、かねてからやりたかったことであり、やらなければいけないことだとも感じていました。現実の制約を外すことで何ができるかを、書きながら確かめていたように思います。

また、大学に在学する中で知に向き合う姿勢の凛々しさをひしひしと感じ、世界を知ることのダイナミズムを物語で表したいと思ったのも理由です。コロナ前は海外に興味を強く持ち、旅行に出かけることもしばしばだったので、そのときの気持ちが投影されているかもしれません。イスタンブールのアヤソフィアと天文博物館を訪れたこと、それから台湾、あとはチベットのリサーチが印象深いです。チベットはまだ行けていないのでいつか訪問したいものです。

SF好きが読んだらどう思うだろうとドキドキしている節もあります

――今回の作品のご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、執筆時のエピソードをお聞かせください。

もともと群像劇を多く書いてきたので、複数の人物を通じてひとつのテーマを描くやり方は掴みつつありました。それを応用すれば空想の歴史や世界の景色を作れるのでは、と考えましたが、やってみると本当に難しかったです。もっと挑戦していきたいところですね。

また、物語の結末といいますか、ここで描かれている歴史の結末が、もともと考えていたよりも強固に描けたことが嬉しいです。プロットの段階よりずっと鮮やかに表れてくれました。

――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。

物語だけが持つ面白さを感じたことがある皆さんであれば、楽しく読んでくれるのではないでしょうか。あとはSF好きが読んだらどう思うだろうとドキドキしている節もありますね。書きたいことは前から変わっていないので、今まで僕の本を読んでくれた方にも馴染むものになったと思います。

言葉では到底表せない強い感動や情景を、物語の力を借りていかに強く書き著すことができるか

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

何かを書くときにはテーマを強く意識します。といっても初めは「テーマ:○○」とプロットに書かれているという陳腐なものですが、本当に書きたいテーマが一言で表せた試しはありません。言葉では到底表せない強い感動や情景を、物語の力を借りていかに強く書き著すことができるか。その一点に集中できれば、結果的にいいシーンができあがると思っています。いいシーンを書こうという気持ちが先行して上手くいった試しがないんですよね。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

僕が好きな小説は、読み進めているうちに自分の中になかった強い感情が流れ込んでくるようなものです。この物語を読まなくてはいけない、この目で見届けなければいけない。そんな気持ちを生み出すものが好きだし、それが物語の底力だと思っています。

[木]に祈る少女、天文台の観測者、各地を回る旅人、一介の運び屋。彼らと一緒に、世界の見つめ方を考えました。この本の中で、自分に埋まっていた何か大きなものと出会ってくれたら本当に嬉しいです。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

9月にバイクでいろんな場所を走ったら、その1か月だけで総走行距離が4000kmほど増えました。それに気付いたとき、旅行中に会った人たち、見た景色を思い出して嬉しくなりました。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

毛の生えたガキ作家です。

Q:おすすめの本を教えてください!

さきほどの、読者のみなさんへのメッセージの質問で意識したのはこの3冊です。

■『流』東山彰良(講談社)

■『ホテル・ニューハンプシャー』ジョン・アーヴィング(新潮社)

■『ツァラトゥストラ』フリードリヒ・ニーチェ(中央公論新社)


青羽悠さん最新作『幾千年の声を聞く』

『幾千年の声を聞く』(青羽悠) 中央公論新社
 発売:2022年10月20日 価格:1,870円(税込)

著者プロフィール

青羽悠(アオバ・ユウ)

2000年、愛知県出身。高校在学中の2016年に「第29回小説すばる新人賞」を受賞し、受賞作『星に願いを、そして手を。』でデビュー。同賞の歴代最年少受賞者。その他の著書に『凪に溺れる』『青く滲んだ月の行方』がある。

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