1990年代に行われた人工的に閉鎖生態系を作る実験、「バイオスフィア2」。米国・アリゾナ州に建造された、地球環境(=バイオスフィア1)を再現した広大な密閉施設の中で、人類の生存は維持できるのか――さまざまな理由で頓挫したものの、それは宇宙進出時代を見据えた壮大なプロジェクトでした。

でももしその実験が結実したら、そしてそれが個人の住環境に応用されていたら? それはきっと理想の住まいで、住人たちには幸せな生活が約束される……はずだったのに!?

発売されたばかりの最新作『バイオスフィア不動産』で、壮大な科学実験をモチーフに、それをミニマムで身近なテーマとして描くことで、変容していく現代社会を見せてくれた周藤蓮さんにお話を伺いました。

VRの発達を実際に目にして、実感が伴わなければこの作品を書くことはなかったと思います

――今回の『バイオスフィア不動産』について、これから読む方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。

内部での恒久的な生活と幸福を約束する住居「バイオスフィアⅢ型建築」が生まれた未来。

永遠に幸せな暮らしをしているはずの家の中から、しかし住宅に関するクレームが届く。

不動産屋のクレーム対応要員である主人公たちは、クレームの解決のために様々な家を訪れていくことになる。

という感じのSF作品です。

わかりやすくお伝えすれば不動産屋の凸凹コンビが独自に発達を遂げた家々を巡る、お宅訪問系エンタメです。

――この作品が生まれたきっかけを教えていただけますでしょうか。

「コロナ禍がきっかけですか?」はこの作品を書いている間に結構いわれたので、この場を借りてお答えすると「そうではない」が答えになります。

今回の作品でテーマにしているのは家にこもっているという状況そのものではなく、社会と個人との接点の変化です。

恒久的に中で暮らせる家というのは個人と社会との関係性の変化、社会の中で暮らすに当たって否応なく制限されてきた個人の精神性が、そのくびきから外れることを意味しています。

作中で現れるのはそれが最も誇張された形ですが、既に個人の意識(大変ざっくばらんな表現ですが)と社会の境界は、現実においても揺らぎ始めています。

何の話をしているかといえば、これはVRChatやVtuberの話をしているんですが。

これまで人が外界に接する時は、おおむね生まれ持った肉体が前提となっていました。外見を変更できる範囲は限られ、それには多大なコストが必要とされてきたわけです。

対してVR(これも乱雑な表現になり恐縮です)は、これまでのどの時代よりも個人の外見に選択の余地を生み出しました。

個人と社会の接点の前提の一つが揺らぎ、そしてこの流れは今後も続いていくと思います。もっと様々な場面で、様々な現実が、これからはVRに置き換えられていくことでしょう。

という感じの諸々の考えが本作の発想の源です。

VRの発達を実際に目にして、実感が伴わなければこの作品を書くことはなかったと思います。

人の関係性を観測するに当たって、視点がどんな人物であるかというのは避けられないテーマであることに気づかされました

――今回の作品のご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、執筆時のエピソードをお聞かせください。

本作はユキオとアレイという二人のキャラクターを主軸に描かれ、特にユキオを視点人物として置いています。

しかし作品のテーマとしているのはあくまで家と家の中にいる人たちであり、ユキオはそれを観測する存在に留める予定でした。つまりユキオ自身がどんな存在であるかというのは、さほど深掘りするつもりはなかったです。

けれど実際に作品を執筆してみると、人の関係性を観測するに当たって、視点がどんな人物であるかというのは避けられないテーマであることに気づかされました。

結果としてお話全体には当初の予定より視点人物たちの内省的な部分が増え、作ったはいいけれど出す予定のなかった設定も多く描写することになりました。

関係性を描くに当たって主観の掘り下げからは逃れられないというのは、これ自体が結構面白いテーマである感じがしますね。

今はまだのんびりと咀嚼し、解釈している段階ですが、いつかこれを取り扱った作品を書いてみたいです。

――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。

まずは「バイオスフィア2」で検索して、想像を巡らせたことがある方でしょうか。

後は眠る時に宇宙について想像して寝付けなくなる人や、知らない国の言葉の響きから意味を想像したりする人とか。

おおむね距離と隔たりを取り扱った小説なので、その辺りに興味が向いている方にはぜひ手に取っていただきたいです。

そのこだわりが面白さに対して無意味であったり、阻害していたりする場合には、こだわりを投げ捨てる心構えはいつでも持つようにしています

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

逆説的な表現になりますが、こだわりをあまり大事にはしないことです。

私も作家である以前に単なる個人、読者ではあるので、面白さに寄与しないこだわりはたくさんあります。いわゆる地雷とかそういうやつです。

なので小説を書いたり構想する際には、自分の判断が何らかの論拠に基づくものなのか、単に趣味に合わない程度のこだわりなのかを考える必要があります。

優先は作品の面白さであり、そのこだわりが面白さに対して無意味であったり、阻害していたりする場合には、こだわりを投げ捨てる心構えはいつでも持つようにしています。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

いつもお読みいただいている方はありがとうございます。今回の作品で興味を惹かれた方は初めまして。

あなたとあなたの世界のことをたくさん考えながらこの本を書きました。お手にとっていただければ、何よりも幸いです。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

昔挫折した本を今読み直して、ようやくその面白さが理解できるようになっていることが多いです。

でもまだピンとこないままの作品も結構残っているので、この「最近嬉しかったこと」は今後も続いていくのだと思います。 

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

天才です。

小説家をやっていく上で一番ネックになるのは、個人的にはメンタルの問題だと思っています。

「これは面白いのだろうか」とか「自分に書く能力があるのだろうか」とか「小説家とはなんだろうか」とか、一度悩み始めたら筆が止まってしまうタイプの疑問は小説家にはつきものです。

こうした疑問にきちんと向き合っていくのも楽しそうですが、私は面倒くさがりなので、自分のメンタルケアにたくさんのコストを割きたくありません。そんなことをしている間に小説を書き進めたいですし。

なので基本的に、小説家として活動する際には「自分は天才である」と思うことにしています。

天才なの(だと思い込んでいるの)で日々イケイケで小説を書いていられるわけですね。

Q:おすすめの本を教えてください!

■『我もまたアルカディアにあり』江波光則(早川書房)

■『ヴォイド・シェイパ』森博嗣(講談社)

■『ローンガール・ハードボイルド』コートニー・サマーズ(早川書房)


周藤蓮さん最新作『バイオスフィア不動産』

『バイオスフィア不動産』(周藤蓮) 早川書房
 発売:2022年11月16日 価格:1,078円(税込)

著者プロフィール

周藤蓮(スドウ・レン)

1995年生まれ。2017年に、「第23回電撃小説大賞」金賞受賞作『賭博師は祈らない』でデビュー。同書はコミカライズも行われている。その他の著書に『吸血鬼に天国はない』『髭と猫耳』、近著に『明日の罪人と無人島の教室』がある。

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