「福家警部補」シリーズ、「警視庁いきもの係」シリーズ、「樹海警察」シリーズなどユニークなミステリー作品で人気を集める大倉崇裕さんが新たに生み出したのは、「怪獣」が暴れまわる世界で起こる事件を解決に導く捜査官!? 正体不明の巨大生物・怪獣の出現はすでに日常――この『殲滅特区の静寂 警察庁怪獣捜査官』はそんな日本を舞台とした本格ミステリー小説なのです!
怪獣対策を目的とした専門省庁・怪獣省で予報官を務め、任務中に奇妙な事件に遭遇した岩戸正美。そして彼女の前に現れた、警察庁特別捜査室に所属する船村と名乗る中年男。ふたりは「怪獣パニックに揺れる日本」で起こる、殺人や失踪に端を発する不可解な事件に立ち向かいます。
怪獣絡みの事件には必ず現れると噂され、陰で「怪獣捜査官」と呼ばれる船村と、「怪獣予報官」の正美という、ミステリー界随一と言えそうな異色バディがどのように生まれたのか、大倉さんにお話を伺いました。
怪獣とミステリーの両方を等分に描きたかった
――今回の『殲滅特区の静寂 警察庁怪獣捜査官』について、これから読む方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。
怪獣が存在する世界ということで「特殊設定ミステリー」をイメージされるかもしれません。怪獣が大暴れしている最中に殺人が起き、その謎を解く――というような。今回はわざとそうした線をズラしています。「怪獣ミステリー」ではなく「怪獣とミステリー」という言い方が一番しっくりくるかもしれません。
――この作品が生まれたきっかけを教えていただけますでしょうか。
怪獣とミステリーの両方を等分に描きたかったからです。怪獣をたてれば謎解きがたたず、謎解きをたてれば怪獣がたたず――試行錯誤を経て、今回のような形に落ち着きました。出てくる怪獣たちはすべてオリジナルですが、モチーフとしたのは、現在も制作、放送されている「ウルトラマン」の怪獣たち、特に平成以降の、トゲトゲしたいかつい顔のヤツらをイメージしています。
怪獣パートの設定蘊蓄もなるべく抑えようと思っていたのに、つい楽しくて……
――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、作品制作時のエピソードをお聞かせください。
当初は怪獣パートは大きく、捜査パートはこぢんまり、と考えていたのですが、いつの間にか、国絡みの大きなものになっていきました。怪獣パートの設定蘊蓄もなるべく抑えようと思っていたのに、つい楽しくていっぱい書いてしまいました。「怪獣殲滅先進国日本」という設定はその流れで出てきたものなのですが、割と気に入っています。
――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。
怪獣に関する比重が多いのは確かですが、映画やテレビを含め、怪獣に詳しくない方でも楽しめるよう気をつけたつもりです。怪獣が好きな方にはもちろん読んでいただきたいのですが、変わり種のミステリーを探している方などにも、ぜひ読んでいただきたいです。
「面白いって何なんだ?」ときかれると、明快な答えはないわけですが、だからこそ、色々なチャレンジもできる
――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。
曖昧な言い回しになってしまいますが、読者の方に「面白い」と思っていただけるかどうかを一番に考えます。「では面白いって何なんだ?」ときかれると、明快な答えはないわけですが、だからこそ、色々なチャレンジもできる。そして、ミステリーにはそれを支えるだけの懐の深さ、裾野の広さがある。私自身、ミステリーを書きながら、ミステリーに助けられています。
――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。
怪獣と小説は、必ずしも相性が良いとは言えません。怪獣は、やっぱり映像が主流です。でも、何とか怪獣を小説の中で大暴れさせられないか――そんなことをずっと考え続けてきた結果、本作のような形になりました。楽しんでいただければ、うれしいです。
Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?
引っ越しをして、仕事をする部屋が広く綺麗になったことと、プラモデルを作る専用スペースができたこと。
Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?
変な作家だと思います。同業の方や編集者さんたちには「どうしてあいつが20年も作家を続けていられるのか判らない」と言われているかもしれませんが、そう言われることが、私にとっては勲章です。
Q:おすすめの本を教えてください!
■『空飛ぶ馬』北村薫(東京創元社)
この一冊で、自分が書きたいミステリーを見つけることができました。
■『64』横山秀夫(文藝春秋)
今までに何千冊もミステリーを読んできましたが、それらの中のベスト1。多分、もう一生、変わらないと思います。
■『ウォッチメイカー』ジェフリー・ディーヴァー(文藝春秋)
翻訳ものはちょっとと思っている方、ディーヴァーはいいですよぉ。特に本作。
大倉崇裕さん最新作『殲滅特区の静寂 警察庁怪獣捜査官』
発売:2022年12月12日 価格:1,980円(税込)
著者プロフィール
大倉崇裕(オオクラ・タカヒロ)
1968年、京都府生まれ。1997年に「三人目の幽霊」で「第4回創元推理短編賞」佳作を受賞。同年に鮎川哲也氏編纂のアンソロジー『本格推理10』に「エジプト人がやってきた」が収録される。1998年には「ツール&ストール」で「第20回小説推理新人賞」を受賞。2001年に『三人目の幽霊』でデビュー。落語専門誌『季刊落語』編集部周辺で起こる事件を描いたこの作品は、『七度狐』『やさしい死神』と続くシリーズとなった。また『白戸修の事件簿』(単行本『ツール&ストール』を文庫化に際し改題)からはじまる「白戸修」シリーズ、『福家警部補の挨拶』からはじまる「福家警部補」シリーズ、『小鳥を愛した容疑者』からはじまる「警視庁いきもの係」シリーズ、『死神さん』(単行本時タイトル『死神刑事』)シリーズはいずれも連続ドラマ化された。特撮、テレビ・劇場アニメの脚本も多数手がけ、自ら脚本を手がけた劇場アニメ作品のノベライズとなる『小説 名探偵コナン から紅の恋歌』なども刊行されている。近著に『死神さん 2 嫌われる刑事』『樹海警察 2』『ゾウに魅かれた容疑者』『冬華』などがある。