どこにいてもお化けに苛まれる主人公を描いた、本格オカルトホラー。
Twitterなどで小説が話題となり、本作『お化けのそばづえ』がデビュー作となる後谷戸隆さんに、作品についてお話をお聞きしました(作品の冒頭の朗読動画や、あらすじ漫画もお楽しみください)。
土壌汚染にかかわる仕事から着想
――『お化けのそばづえ』について、これから読む方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。
お化けに悩まされる主人公がお化けをなんとかしようと頑張る話です。怪しい霊能者が出てきてこれまでに(たぶん)なかったんじゃないかなという手法でお化けに対峙するなどの見どころもあります。
――本作を描こうとされたきっかけを教えていただけますでしょうか。
仕事で土壌汚染にかかわることがあり参考に本を読んでいたとき、「土壌汚染って概念は『忌み地』の考え方に応用したら面白そう!」と思ったのが発想元です。
中盤のシーンやお化けとの戦いがポイント
――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、執筆時のエピソードをお聞かせください。
動きのあるシーンや情景描写をしなくてはいけないシーンがぜんぜんうまく書けず「おれはなんて文章が下手なんだ! くたばれ!」と思いながらずっと直していました。
あとはひたすら漢字を開いたり閉じたり開いたり閉じたり(ご存知でしたか。漢字をひらがなにすることを「ひらく」、ひらがなを漢字にすることを「とじる」というのですが、基本的にこの運用は作中でずっと同じにしないといけないのです。例えば「所(ところ)」という言葉を一度漢字で「所」と書いた場合、作中に出てきた「ところ」という言葉は全部漢字にしないといけないのです。その運用がバラバラな場合、検索して全部打ち代えなければならないのです。これがもう本当に大変なのです。初めから漢字の運用表を作るべきなのです)。
――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。
話については怖く書けているかどうか少し心配だったのですが、読者の方から「結構怖い」という感想を頂いているので、ホラー好きの方にも安心しておすすめできます。あと「ところどころ怖いけど最終的にはだいたいいつもの後谷戸のテイストになる(大意)」という感想もいただいているので、わたしのファンの方にもおすすめ。
読みどころ。プロローグで死にそうになってる主人公が中盤で死にそうになるのですが、そのシーンがかなり面白く、編集者さんからもここがイチオシですといただいております。
あとお化けとの最後の戦い(物理)が個人的には好きです。
そういう冗長性の中に小説のすべてがあるんだと思います
――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。
本筋と関係があるんだかないんだかわかんないぎりぎりのなんかいい感じの一文をうまいこと(重要)潜りこませることができるかどうかが大切です。そういう冗長性の中にたぶん小説のすべてがあるんだと思います。あるかもしれません。ないかもしれませんね。
――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。
ありがとうございます。皆様の応援のおかげでこんなところまで来ることができました。「作家になるのは今生では無理だな~来世に期待」と思っていたのですが、今生でいけました。引き続きいい話が書けるようがんばります。
ホラーの怖さもありながら、主人公と共に戦う「霊的環境汚染対策屋」というユニークな仕事に、思わず笑いながら楽しませていただきました。
土壌汚染にかかわるお仕事の中で本作の着想を得られたとのこと、完全に納得しました。お化けとの向き合い方が、まるで建築コンサルタントや工務店の業務のように、科学的(?)に計画的に行われていくところに、お仕事小説のようなわくわく感がありました。
とくにラストが圧巻。後谷戸さんがおっしゃる通り、お化けとの戦い方としては「これまで見たことのない手法」で挑みます。大変おもしろかったです。おすすめです!
怪談朗読YouTuberの136さんによる、冒頭30ページの朗読動画もあります。作品の雰囲気が感じられます(怖い…!)
Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?
最近やっとなんとなく文章が書けているなという気がするようになってきたのがうれしいです(気のせいかもしれません)。思えば十数年、なんとなくも文章が書けていない気がしたままの人生でした。
Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?
難しいですね。読んだ人が気持ちよくなれるような小説を書ける小説家になろうとは心がけています。あと読んだあとに何を読まされたんだって思えるような小説が書けるといいなと思います(これは目標です)。
Q:おすすめの本を教えてください!
ひたすら何かの起こりそうな気配を集めた掌編集。ながらく(十年ぐらい)わたしは百閒先生の文体を模倣し百閒先生の世界観を模倣してきたので、もしかするとその感覚が『お化けのそばづえ』にも反映されているかもしれません。百閒先生の世界では、遠くの方で何かが起こっているような気がするし、すぐ近くで誰かが何かを言ったような気がするのですが、それがなんなのかはよくわからないまま続いていくのです。人生みたいです。
最近上下合本版が本屋で並んでいるのを見ました。ヴィクトリア朝ロンドン、ホワイトチャペル。切り裂きジャックの話。ガル博士が血まみれのメアリーを抱きしめるシーンをはじめ、全体的に幻視が最高。
小説家になったのでこのルビを格好良く振る権力を自由に行使できるようになったのではないかという気がします(ウェブで書いているときは基本的にはルビを格好良く振るということができないので……)。これからはじゃんじゃん権力を行使していきたい。
後谷戸隆 さん最新作『お化けのそばづえ』
発売:2022年03月25日 価格:1,870円(税込)
『お化けのそばづえ』のあらすじ漫画(作:時田様)をいただきましたので、ご紹介します!
著者プロフィール
後谷戸 隆 (ウシロヤト タカシ)
1986年東京都生まれ。東京都在住。本書で小説家デビュー。そのほか漫画原作も手掛ける。