第168回(2022年下半期)芥川龍之介賞、直木三十五賞の候補作が発表されました。

選考委員会が行われ、受賞者・受賞作が発表されるのは2023年1月19日(木)。今回も「ナニヨモ」編集部による、ひと足早いご勝手予想を加えて、候補作をご紹介します。

年末・年始のおともに、候補作品を手にとってみてはいかがでしょうか? 

【第168回芥川賞候補】(五十音順) 

安堂ホセ「ジャクソンひとり」(『文藝』2022年冬季号掲載) 

着ていたTシャツに隠されたコードから過激な性的動画が流出し、職場で嫌疑をかけられたジャクソン。仕方なく独自調査をはじめた彼は、動画の男は自分だと主張する3人の男に出会う。――痛快な知恵で生き抜く若者たちの鮮烈なる逆襲劇!「第59回文藝賞」受賞作。(単行本は河出書房新社より発売中)

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■ アンドウ・ホセ/1994年、東京都生まれ。2022年「ジャクソンひとり」で「第59回文藝賞」を受賞しデビュー。

井戸川射子「この世の喜びよ」(『群像』2022年7月号掲載) 

幼い娘たちとよく一緒に過ごしたショッピングセンター。喪服売り場で働く「あなた」は、フードコートの常連の少女と知り合い、言葉にならない感情を呼び覚ましていく(「この世の喜びよ」)。単行本には「マイホーム」「キャンプ」を合わせて収録。(単行本は講談社より発売中)

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■イドガワ・イコ/2018年に第一詩集『する、されるユートピア』を私家版にて発行。同作にて2019年に「第24回中原中也賞」を受賞。2021年に刊行された小説集『ここはとても速い川』で「第43回野間文芸新人賞」を受賞。 

グレゴリー・ケズナジャット「開墾地」(『群像』2022年11月号掲載) 

母が出奔し、サウスカロライナで母の再婚相手であり、異国の言葉を喋る養父に育てられたラッセル。やがて日本の大学に留学した彼は、いつしか自身の母語にこそ閉塞を感じるようになり――。デビュー作に続き、言語の狭間に立つ主人公を描く。(単行本は講談社より2023年1月下旬刊行予定)

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1984年、米国・サウスカロライナ州生まれ。2021年「鴨川ランナー」で「第2回京都文学賞」を受賞し、同作を表題とした『鴨川ランナー』でデビュー。

佐藤厚志「荒地の家族」(『新潮』2022年12月号掲載) 

40歳の植木職人・坂井祐治は、あの災厄の2年後に妻を病気で喪い、仕事道具もさらわれ苦しい日々を過ごす。地元の友人も、くすぶった境遇には変わりない。誰もが何かを失い、元の生活には決して戻らない。仙台在住の書店員作家が描く、止むことのない渇きと痛み。 (単行本は新潮社より2023年1月19日発売予定)

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サトウ・アツシ/1982年、宮城県生まれ。2017年に「蛇沼」で「第49回新潮新人賞」を受賞しデビュー。2020年には「境界の円居」で「第3回仙台短編文学賞」大賞を受賞。2021年に単行本『象の皮膚』を上梓。 

鈴木涼美「グレイスレス」(『文學界』2022年11月号掲載) 

アダルトビデオ業界で化粧師として働く聖月。彼女が祖母と共に暮らすのは、森の中に佇む、意匠を凝らした西洋建築の家である。まさに「聖と俗」と言える対極の世界を舞台に、「性と生」のあわいを繊細に描いた新境地。(単行本は文藝春秋より2023年1月16日発売予定)

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■スズキ・スズミ/1983年、東京都生まれ。新聞記者を経て、執筆活動に入る。記者在職中に初の書籍『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』を刊行。本年「第167回芥川賞」候補作となった『ギフテッド』を上梓。 


【第168回直木賞候補】(五十音順) 

一穂ミチ『光のとこにいてね』(文藝春秋)  

古びた団地の片隅で、彼女と出会った。彼女と私は、なにもかもが違った。着るものも食べるものも住む世界も。でもなぜか、彼女が笑うと、私も笑顔になれた。彼女が泣くと、私も悲しくなった。運命に導かれ、運命に引き裂かれるひとつの愛に惑う2人の、四半世紀の物語。 

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イチホ・ミチ/2007年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。BLジャンルを中心に劇場版アニメ化もされ話題の『イエスかノーか半分か』など著作多数。2021年刊行の『スモールワールズ』が「第165回直木賞」候補となる。同書は「第43回吉川英治文学新人賞」を受賞。

小川哲『地図と拳』(集英社)  

日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空。地図に描かれた存在しない島を探し、海を渡った須野……。奉天の東にある〈李家鎮〉へと呼び寄せられた男たち。「燃える土」をめぐり、殺戮の半世紀を生きる。日本SF界の新星が放つ、歴史×空想小説。

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■オガワ・サトシ/1986年生まれ。2015年に『ユートロニカのこちら側』で「第3回ハヤカワSFコンテスト」大賞を受賞しデビュー。 2020年には『嘘と正典』が「第162回直木賞」の候補作となった。2022年にはアンソロジー『異常論文』収録の短編「SF作家の倒し方」が「第53回星雲賞日本短編部門」を、また『地図と拳』が「第13回山田風太郎賞」を受賞している。

雫井脩介『クロコダイル・ティアーズ』(文藝春秋)  

夫を殺された美しい妻。しかし彼女の立場は犯人のひと言で一変した。その犯人は妻のかつての恋人であり、その男が裁判で彼女から殺害を依頼されたと証言したからだ。美しき未亡人は、夫の殺害を企てた悪女なのか、それとも。女の涙を疑う母親と信じたい父親。家族の間に疑心暗鬼が広がっていく――。

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シズクイ・シュウスケ/1968年、愛知県生まれ。1999年に内流悠人名義で応募した『栄光一途』で「第4回新潮ミステリー倶楽部賞」を受賞し、翌2000年に同作でデビュー。2004年に『犯人に告ぐ』で「第7回大藪春彦賞」を受賞。

千早茜『しろがねの葉』(新潮社)  

戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山。天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは、銀山の知識と未知の鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。しかし徳川の支配強化により喜兵衛は生気を失い、ウメは欲望と死の影渦巻く世界にひとり投げ出されて……。生きることの官能を描き切った新境地にして渾身の大河長篇!

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チハヤ・アカネ/1979年、北海道出身。2008年に「魚神」で「第21回小説すばる新人賞」を受賞しデビュー。同作は2009年に「第37回泉鏡花文学賞」を受賞。2013年に『あとかた』が「第20回島清恋愛文学賞」を受賞し、「第150回直木賞」候補となる。2014年には『男ともだち』で「第151回直木賞」候補に。2020年の『透明な夜の香り』は「第6回渡辺淳一文学賞」を受賞している。

凪良ゆう『汝、星のごとく』(講談社)  

わたしは愛する男のために人生を誤りたい。――風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂。ともに、心に孤独と欠落を抱えた2人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。

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■ナギラ・ユウ/滋賀県生まれ。2006年にBL作品にてデビュー。2017年からは文芸作品も発表をはじめ、2020年に『流浪の月』で「第17回本屋大賞」を受賞。


ナニヨモ編集部の予想!

前回、第167回では候補作すべてが女性作家による作品となったことで話題となった芥川賞。今回大きな注目となっているのは、受賞すれば日本語を母語としない作家として史上3人めとなるグレゴリー・ケズナジャットさんの「開墾地」かもしれません。生まれ育った国の言葉とは別の言語に晒されることで生まれる違和感ではなく、母語からの解放を描いた作品です。

しかし安堂ホセさんの「ジャクソンひとり」も、同じように「世界」と対峙せざるを得ない「私」を描いた作品のように感じました。

日本に生まれ育ちながら常にアイデンティティーを問われ続ける立場をテーマに、鮮烈な若さでそれを乗り越えていく世代を描いた「ジャクソンひとり」を推したいと思います。

一方、直木賞では2回めの候補となる『光のとこにいてね』の一穂ミチさん、初の候補となる『汝、星のごとく』の凪良ゆうさんというおふたりのBL出身作家に注目が集まっています。かつてライトノベル出身の作家による一般文芸への進出が目立った時代を思い起こした方も多いかもしれません。

しかしナニヨモとしては、次々話題作を発表し続けている小川哲さんの『地図と拳』の受賞を予想としたいと思います!

発表は2023年1月19日。みなさんの予想はいかがでしょうか?

芥川賞予想

(初)安堂ホセ「ジャクソンひとり」★
(初)井戸川射子「この世の喜びよ」
(初)グレゴリー・ケズナジャット「開墾地」
(初)佐藤厚志「荒地の家族」
(2)鈴木涼美「グレイスレス」

直木賞予想

(2)一穂ミチ『光のとこにいてね』
(2)小川哲『地図と拳』★
(初)雫井脩介『クロコダイル・ティアーズ』
(3)千早茜『しろがねの葉』
(初)凪良ゆう『汝、星のごとく』

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