もしあなたの家族だけが共有しているはずの「家族の思い出」を、周りのみんなが知っているとしたら、あなたはどんな気持ちになるのでしょうか。実は、この物語の「相田家」の思い出は、書店で売っているのです!?

家庭での出来事を描くコミックエッセイ作家の相田洋子。幼い3兄妹の微笑ましいエピソードが人気を集めているものの、現実の時間は作品を待つことなく進み、長男はすでに成人し、その妹たち2人もなかなか微妙なお年頃。ほんのちょっとのズレだと思っていたそれが、意外に大きな問題だったと気づいたのは、洋子のもとに届いたドラマ化のオファーがきっかけだった――。この『四度目のうぶごえ』は、「みんなが知っている家族」が抱える「本人たちも知らなかった想い」を描いた、ちょっとビターなホームコメディです。

2021年に「第一回ステキブンゲイ大賞」優秀賞を受賞し、本作でデビューを果たす森春子さんにお話を伺いました。

なあなあになっていた家族の問題を避けて通れなくなる…というお話です

――今回の『四度目のうぶごえ』について、これから読む方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。

自分の子どもたちのエピソードを漫画に描いているコミックエッセイ作家の洋子の元に、「ドラマ化」の話が来るところから始まる物語です。それをきっかけに、洋子は新作が描けなくなってしまいます。実は現実の子どもたちはとっくに成長し、描かれることに微妙な反応をするようになっていて、ドラマ化によって、なあなあになっていた家族の問題を避けて通れなくなる……というお話です。

洋子だけでなく、兄妹ひとりひとりの視点で各章を書いたので、それぞれの価値観の違いや持っている思いのすれ違いなんかも楽しんでいただけたらと思っています。

――この作品が生まれたきっかけを教えていただけますでしょうか。

就職して少しして、友人が編集者になって、初めてコミックエッセイというジャンルを認識しました。そこからブログやSNSでの一大人気ジャンルだと知り、かなり赤裸々なことも綴られているのに驚いて、「当のお子さんはどう思っているんだろう? 成長した後は感じ方も違うのかな?」と想像したのがきっかけです。

また、同じ現象に対する感じ方や考え方は、きっと兄妹でも違うんじゃないかと思い、大学生、高校生、小学生と立場と性別をばらけさせて設定しました。作家が「母親」だったので、思春期に一番ぶつかるのは女の子がいいんじゃないかと思って真ん中の高校生を女の子にして、あとは描きたいエピソードで決めていきました。

一番上が姉ではなく「兄」なのは、わたしが「お兄ちゃん」の存在に憧れていただけかもしれません(笑)。

「あ、やっぱり楽しく書いたところと差が出ちゃうんだ! バレてる!」と焦りました……(笑)

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、また書籍化に際しての改稿で気をつけたことなど、作品制作時のエピソードをお聞かせください。

最初に自由に書いたときは、特に苦労はしなかったです。冒頭でつまらないと思われないように「描けなくなった」から始めよう! と意識したのは覚えています。兄妹の掛け合いも楽しく書きました。

一方、賞をいただいて改稿段階になると、なんとなくで書いていた部分があるとわかって、足りないところを必死に考えました。アドバイスで「兄妹の部分はいいけど、肝心の洋子(主人公)がよくわからない」といただいて、「あ、やっぱり楽しく書いたところと差が出ちゃうんだ! バレてる!」と焦りました……(笑)。その部分がよくなっていることを祈るばかりです。

そうして再度じっくり向き合うと、自分も適当にしか把握していなかったひとりひとりの芯の部分に触れたような気がして、少しでも伝わる改稿になっていたらいいなと思います。

あと、これはわたしの苦手分野なのですが、いつも中編くらいの長さで書き切った感じになってしまうので、ボリュームを出すのも大変でした(その分考えが及んでいないところがあるんだなと痛感しました)。

――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。

見た目にも、読み心地にも読みやすくてきれいな文章を書きたいと思っているので、「読みやすい小説ないかな」「気軽に読めるものないかな」と思っている人に届いてほしいです。あっという間に読めて感想文なんかも書きやすいと思うので宿題にもぜひ……(笑)。

あと、兄弟や家族に、ちょっとだけ苦い思いがある人には、どこかに共感してもらえるんじゃないかと思っています。

実は一つの同じテーマを掲げているのですが、まだ表現しきれていないので……

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

SNSやニュースを見ていて、「どうしてだろう?」とか「それってどういう気持ちなんだろう」と思ったときに書きたいものが出てくるので、ニュースなどの小さな詳細を見たり想像したりするようにしています。

あと、どの作品を書くときも、実は一つの同じテーマを掲げているのですが、まだ表現しきれていないので、いつか堂々と言えるようになりたいです。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

小説って、能動的に読み進めないといけないし、ページを捲るので手も離せないし、早送りとかスキップもできなくて時間もかかるしで、今や、読んでいただくのがすごく難しいものになっていると思うんですが、そんな中で手にとっていただけたならそんなに嬉しいことはないです。

少しでも素敵な時間を過ごしていただけますように!

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

もちろん本の刊行です! 小さい頃からの夢が叶いました。

他には、理想そのもののアンティークチェアと出会ったことです。早くその椅子で次の作品を書きたいです!

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか? どんな小説家になりたいとお考えですか?

どんなふうに見えるのかむしろ教えていただきたいくらいで、自分の長所を探る日々です(涙)。

ずっと描き続けられる作家になりたいです! ……が、次の糸口の見つけ方を絶賛悩み中です……。

Q:おすすめの本を教えてください!

3冊に絞るのが大変でしたが以下をご紹介します!

■『さくら』西加奈子(小学館)

小説を読んで価値観が変わる、という体験として鮮烈に覚えています。どこかで性って恥ずかしくてタブーなものだと思っていたのですが、こんなに幸福なものなんだ、と思いました。最後の方も好きで、この本を読んで以来、「好き」という気持ちは、そのときに真っ直ぐ伝えるようにしています。

■『愛情生活』荒木陽子(作品社/KADOKAWA)

文章もすごくパワーがあって、飲み込まれそうになるので、いつも少しずつしか読めないのですが、絶対に一生手放さない本だと思います。自分はこういう文章は書けないだろうなとわかるからこそ、永遠の憧れでもあります。

■『ひな菊とペパーミント』野中柊(講談社)

可愛い初恋が、美しく素敵な言葉で描かれています。思春期から大人まで手に取れて、読みやすい文章だけど、確実に美しく、記憶に残るものが好きで、野中柊さん、山本幸久さん、橋本紡さんらに影響を受けていると思います。中でもこの本は大好きな作品です。


森春子さんデビュー作『四度目のうぶごえ』

『四度目のうぶごえ』(森春子) ステキブックス
 発売:2023年02月17日 価格:1,650円(税込)

著者プロフィール

森春子(モリ・ハルコ)

1989年生まれ。東京都出身。本作にて「第一回ステキブンゲイ大賞」優秀賞を受賞しデビューを果たす。

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