日に日に増していく暑さが、間近に迫る夏を感じさせてくれる今日このごろ。この時期の読書といえば、そろそろホラー作品に手が伸びはじめる方も多いでしょう。

今回ご紹介する蒼月海里さんの新作『戸張と御子柴 孤島の夜の黄泉還り』は、(主に売り上げ的に)行き詰まっている幻想小説家・戸張と、登録者数100万人を誇る人気心霊系動画配信者・御子柴という異色のバディによるサバイバルホラーです。

思わぬなりゆきで、御子柴の「死者が蘇る伝説の島」へのロケに同行することになった戸張。トラブルから、同行するツアー客とともにひと晩を島で過ごすことになったふたりを待っていたのは……。

戸張と御子柴を襲う恐怖の一夜は、あなたの背筋をひんやりと刺激して、きっと暑さを忘れさせてくれるはず。不思議系ホラーやファンタジーで多数の作品を生み出してきた蒼月さんが、念願叶って「怖さ」を追求した本作についてお話を伺ってみました。

当時の葛藤みたいなのを思い出しつつ、崖っぷち幻想小説家の戸張を生み出しました

――今回の『戸張と御子柴 孤島の夜の黄泉還り』について、これから読む方へ、どのような物語かをお教えいただけますでしょうか。

売れない幻想小説家が人気配信者に振り回されつつ『死者が蘇る』という伝説がある孤島に赴き、怪異に見舞われるという話です。

あるトラブルのせいで同じツアーに参加していた人達と孤島で一夜を過ごさなくてはいけなくなるのですが、ツアー客はみんな訳ありっぽく、しかも、恐ろしいことが起きてしまうという……。

ホラーなのですが、ミステリーっぽい味付けにしてみたので、ホラー初心者でも楽しめるかなと思います。

――この作品が生まれたきっかけを教えていただけますでしょうか。

私は妖怪や怪談が好きなのですが、デビュー前は「妖怪ものは売れない」と言われていた時代で、妖怪系の企画が本当に通らなかったんです。

その頃の書店さんはミステリー小説が目立っていて、妖怪をやめてミステリーに舵を切るしかないのか……と悩んだものです。私にとってミステリーは難易度が高かったんですよね。

当時の葛藤みたいなのを思い出しつつ、崖っぷち幻想小説家の戸張を生み出しました。

そういう意味では、今までのキャラクターの中で一番自分に近いかもしれません。

大人気動画配信者の御子柴は、今の時代ならではのキャラクターを出したいという動機から生まれました。

取材もかねて様々な心霊チャンネルを覗いたのですが、今ではどっぷりハマってしまったのが悩みの種です(笑)。

自然が豊かで廃墟がある島を観光するという流れなので、夏の旅行をしたい方は是非、本書を開いてみてください

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。

当初は派手な異形を出したいとか、島にもっとフォーカスしたいとか思っていたのですが、最終的に男子バディを前面に押し出した企画になりました。

そのお陰もあってか、ホノジロトヲジさんによる大変素晴らしい装画の本になったので、その方向を示してくれた担当さんには感謝したいです。

最初、本作の怪異はもっと違う設定だったのですが、いつの間にかああいう感じになっていました。どういう感じかは読んでからのお楽しみです。

何の影響を受けたかは、本編の終盤にヒントがあります。

――これから夏を迎えホラー作品にピッタリの季節ですが、その中でも本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。

前半は、自然が豊かで廃墟がある島を観光するという流れなので、夏の旅行をしたい方は是非、本書を開いてみてください。

一方、夜は一変して恐怖の島になるので、程よく涼しくなれるのではないかと。

戸張と御子柴とともにツアーに参加する客達は訳ありっぽいですし、ガイドも訳知りっぽいので、彼らがどんなワケを持っているのか想像しながら読んでも面白いかもしれません。

「荒唐無稽」と言われていたことが、時代を経て「常識」になることもあります

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

現実ではありえないと言われていることに現実味を与えることですね。

私が書くのは、主にホラーとファンタジーなのですが、作中で超常的な現象や存在を現実になじませ、リアリティを出すことにこだわっています。

そのため、今までに独自の法則を幾つか生み出していて、本作にも採用されています。

本作の怪異も、もしかしたら現実にあるかも? と思ってもらえたら嬉しいです。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

この世界には、まだまだわかっていないことがたくさんあり、新たに発見されるものが途切れる気配もありません。

「荒唐無稽」と言われていたことが、時代を経て「常識」になることもあります。

本作の怪異も、もしかしたらあなたの隣で起きている出来事かもしれません。

そんな想像力を巡らせながら読んで頂けますと幸いです。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

久々に文芸単行本の新刊が出せたことですね。

普段自分の著作が並ばない棚に新刊を陳列して頂けるので、新しい読者さまとの出会いを期待したいです。

また、デビュー作である『幽落町おばけ駄菓子屋』を書いていた頃は、私の力不足ゆえに怖い話が書けませんでしたが、今回はちゃんと怖くなったのではないかと。

ちゃんとしたホラーを書けるようになってデビューした版元さんに戻って来られたのは感慨深いです。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

幻想を現実にする小説家だと思っています。

大切にしていることの回答と被ってしまいますが、現実ではありえないことをさも現実にあったかのように書くというのが作風かと。

現実のことを書かないというのが作風とも言えますが(笑)。

今後も、実体がないものに手触りや肌触りを与えつつ作品を紡いでいければと思います。

Q:おすすめの本を教えてください!

■『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー/著 青木久恵/訳(早川書房)

孤島ミステリーの原点とも言われる本書をまだ読まれていない方は是非。

私は書店員時代、うっかり朝に読み始めてしまい、夢中になりすぎて危うく遅刻するところでした。

■『黒猫/モルグ街の殺人』エドガー・アラン・ポー/著 小川高義/訳(光文社)

本書は、キャラクターミステリーの原点とも言われる『モルグ街の殺人』を収録。

『戸張と御子柴 孤島の夜の黄泉還り』でも少しだけ触れていますが、犯人が衝撃的で、ミステリーの自由さを知った作品です。

■『ラヴクラフト全集4』H・P・ラヴクラフト/著 大瀧啓裕/訳(東京創元社)

本書は『狂気山脈にて』を収録。最近、特にマーダーミステリー界隈で狂気山脈が盛り上がっているようなので、これをきっかけにラヴクラフト作品を読んでもらいたいです。ラヴクラフトはいいですよ。


蒼月海里さん最新作『戸張と御子柴 孤島の夜の黄泉還り』

『戸張と御子柴 孤島の夜の黄泉還り』(蒼月海里) KADOKAWA
 発売:2023年06月16日 価格:1,540円(税込)

著者プロフィール

蒼月海里(アオツキ・カイリ)

宮城県生まれ。書店勤務の後、​2014年に『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同作はシリーズ化され、コミカライズも行われている。そのほか「華舞鬼町おばけ写真館」シリーズ、「モノノケ杜の百鬼夜行」シリーズ、「幻想古書店で珈琲を」シリーズ、「深海カフェ 海底二万哩」シリーズ、「咎人の刻印」シリーズ、「怪談喫茶ニライカナイ」 シリーズ、「要塞都市アルカのキセキ」シリーズなど多数の作品を発表。また小説のほか漫画原作や文庫解説なども手掛ける。近著に『終末惑星ふたり旅』『ルーカス魔法塾池袋校 4 禁断のゴーレム製造』などがあるほか、7月にも『怪談都市ヨモツヒラサカ』の刊行が予定されている。

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