一時期の過剰なブームは落ち着きつつあるものの、アウトドア・レジャーの代表格と言えばやっぱり「キャンプ」ですよね。気のあった仲間同士で焚き火を囲んだり、それともひとりで満天の星を眺めたり、自然に囲まれて過ごすひとときを楽しんだことのある人は、みなさんの中にもたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
三浦晴海さんの発売されたばかりの新作『歪つ火』は、そんなキャンプをテーマにしたホラー作品です。憂鬱な日常を離れてソロキャンプに出かけた主人公・友美。訪れたキャンプ場で、居合わせたキャンパーたちとの交流で心を癒やした友美を待っていたのは、望んでいたのとは別の形の「非日常」……。
パニックホラーでは定番とも言えるキャンプ場を、サイコホラーの舞台として生まれ変わらせ、いままで味わったことのない恐怖を描いた三浦さんに、お話を伺いました。
『そうか、キャンプって非日常なんだ』『つまりキャンプ場って異世界なんだ』と気づいて、この作品の骨格がひらめきました
――今回の『歪つ火』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。
辛い日常から逃れようとソロキャンプにやってきた友美。テントを張り、ご飯を作り、その場で知り合った人たちとキャンプファイヤーなども楽しんだ。
ところが翌日、なぜかキャンプ場から出られなくなり、さらに昨日知り合った人たちからは「初めまして」と言われてしまう。
友美の困惑をよそに違和感はさらに強まり、やがて恐怖へと変わっていく……という、キャンプ場が舞台のホラー小説です。
――この作品が生まれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。
数年前からキャンプが趣味になり、各地のキャンプ場へ足を運ぶようになりました。
焚き火に薪をくべながら、いつかはキャンプをテーマにホラーを書きたいと思い続けていました。
でも、キャンプ場が舞台のホラーは映画などでも定番で、なかなか新奇なアイデアは浮かびませんでした。
そんな時、何かの雑誌のキャンプ特集で『日常を離れて……』という言葉が目に入りました。
そこで『そうか、キャンプって非日常なんだ』『つまりキャンプ場って異世界なんだ』と気づいて、その瞬間にこの作品の骨格がひらめきました。
焚き火やランタンの明かりの下で読めば臨場感も高まり、より怖さが増すと思います
――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。
最も苦心したのは、恐怖の対象をどこに据えるかということでした。
たとえば殺人鬼やゾンビや怪物を登場させるなら、恐怖の対象は明確です。
敵がどう襲いかかってくるか、主人公はどう追い詰められていくかに焦点が絞れます。
でも、この「歪つ火」は……ネタバレになりますが、舞台そのものを恐怖の対象としました。
「ここにいてはいけない」という恐怖を、どうやって読者に伝えられるか。
その演出や構成を考え抜いて書き上げました。
――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。
キャンプがテーマの作品なので、キャンプやアウトドアが趣味の人にも読んでほしいと思っています。
焚き火やランタンの明かりの下で読めば臨場感も高まり、より怖さが増すと思います。
もちろん、キャンプに興味のない方なら、家のベッドの上で読んでいただいても大丈夫です。
馴染みのない方ほど、キャンプ場という異界に足を踏み入れる恐怖が高まるかもしれません。
すべてのホラー好きの皆さんにオススメの作品です。
「怖い!」は「楽しい!」という感覚を、本作『歪つ火』で再確認してもらえたら嬉しいです
――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。
リアリティと共感性でしょうか。
読者には作品の世界に入り込み、登場人物の一人として体験し、恐怖を感じて欲しいと思っています。
そのため登場する人物や舞台や小物にリアリティを追求しています。
『歪つ火』では登場人物のプロフィールや、キャンプ場の雰囲気やキャンプ用品などを徹底的に調べて、検討を重ねて、予備知識を深めてから執筆にあたりました。
結局、作品に登場せずに終わる知識や小道具も多いのですが、そのバックボーンが登場人物の台詞や動作にリアルな血肉を与えてくれていると信じています。
――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。
人間は怖さを楽しむことのできる動物です。
他の獣にとって恐怖とは、避けるべきネガティブな感情です。
しかし人間だけは、その恐怖を娯楽として受け入れられる情緒を持っています。
しかもそれが小説という、文章だけの物語からでも得ることができるのです。
そんな「怖い!」は「楽しい!」という感覚を、本作『歪つ火』で再確認してもらえたら嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします。
Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?
前作の『屍介護』が、漫画誌の『青騎士』でコミカライズされたことです。
自分の作品が漫画で読めることに感動しました。
またノベルアプリの「peep」で『ホモサピ観察バラエティ 〜人類もう一度滅亡させた方がいい説〜』という作品を掲載していただきました。
小説とはまた違う読み物として楽しんで書けました。
小説以外で嬉しかったことは、ガチャガチャ回すカプセルトイで3回続けて望みの品物をゲットできました。
豆本のシリーズが好きです。
Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?
体験談を書く小説家だと思います。
「作家は自分が体験したことしか書けない」という人もいますが、現実かどうかはともかく、私は執筆に入り込むと自分が実際に体験したこととして書いています。
だから私が書く作品は全て真実です、私にとっては。
ホラーも怖がりながら書いているので、読者もきっと怖いと思ってくれるはずです。
Q:おすすめの本を教えてください!
■『囀る魚』アンドレアス・セシェ(西村書店)
■『隣の家の少女』ジャック・ケッチャム(扶桑社)
■『死のロングウォーク』スティーヴン・キング(扶桑社)
三浦晴海さん最新作『歪つ火』
発売:2024年01月23日 価格:858円(税込)
著者プロフィール
三浦晴海(ミウラ・ハルミ)
小説投稿サイトでの作品発表を経て、2022年に『屍介護』を刊行。その他の著書に『走る凶気が私を殺りにくる』がある。