事故物件――事件や事故などで人死にのあった部屋や家屋のこと。本作『わたしと一緒にくらしましょう』の主人公・美苗が住むことになったのはそんな家なのです。

離婚を機に、三歳の娘を連れて実家に出戻ることになった美苗でしたが、彼女を受け入れるために実家の両親と祖母、兄夫婦が転居を決めたのが、近所に建つ、お屋敷と言ってもいい大きな家。破格の値で売り出されていたその家が一家心中を出した家であることは家族もみんな知っていたはずなのに。それでも小さな子どもを抱えて働くシングルマザーという現実を前に、背に腹は代えられず、新たな「実家」に身を寄せた美苗を待っていたのは……。

曰く付きの家を舞台に、「自分好みの家ホラーを存分にやりたい」という思いを込めて怪異に追い詰められていく人々を描いた、尾八原ジュージさんにお話を伺いました。

果たして美苗たちが「一緒に」暮らしていたのは――?

本来安心できる場所であるはずの自宅でお化けに遭遇するのはどう考えても厭なものですし

――今回の『わたしと一緒にくらしましょう』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。

シングルマザーになった主人公は、三歳の娘と共に、両親と兄夫婦が新しく購入した家に引っ越します。新居は古いながらも豪邸と言って差支えないような一軒家で、近隣では有名な曰く付き物件でもあります。家の中に「入ってはいけない部屋」があり、その部屋に関する決まりだけ守れば大丈夫と言われて住み始めるのですが、案の定引っ越した夜から怪現象が起こり始めます。

本作では、2023年12月にKADOKAWAから発売された『みんなこわい話が大すき』と共通するキャラクターや設定を使用しており、実質シリーズ二作目ということになっています。とはいえ、本作のみを読んでもお楽しみいただけるようになっていますので、お気軽にお手に取っていただければ幸いです。

――この作品が生まれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。

元々はWeb小説サイト「カクヨム」で、商業ではなく個人的に連載していたものです。前作にあたる『みんなこわい話が大すき』の連載が終わってしばらくすると、完結直後の満足感が薄れて、寂しくなってきてしまいました。そこでとにかく新しい連載を始めようと思い、「幽霊屋敷ものをやろう」「登場人物のうち、××さんはヤバい人ということにしよう」ということだけを決めて、半ばむりやり書き始めました。書きながら「一家心中があった家」や「入ってはいけない部屋がある」などの設定を決め、自分の好きな(絶対に住みたくはありませんが)幽霊屋敷を作り上げていきました。ですから本作の生まれたきっかけは何かというなら、「連載が終わった寂しさ」だと思います。

元々「家に出るものの怪異譚」が好きです。本来安心できる場所であるはずの自宅でお化けに遭遇するのはどう考えても厭なものですし、それだけにホラーの題材として強い魅力を感じます。本作に関しては「自分好みの家ホラーを存分にやりたい」という気持ちが強く、またその点においては満足のいくものになったと思います。

ご自宅で一人のときなどに読んでいただくと、臨場感が増して、より怖さをお楽しみいただけるかもしれません

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。

「とにかくもう一度連載を始めたい」という一心で始めた連載だったので、構想がほとんどなく、連載開始時にはシリーズものになることすら決まっていませんでした。もちろんストックもなく、カクヨムで毎日1000~2000字ほどの更新を続けながら、リアルタイムで続きを考えていました。そのため、後々になって設定の矛盾などが発生し、こっそり修正したことも何度かありました。元々商業作品ではなく、また修正の自由が利くウェブ連載だったからこそできたことだと思います。

作者にも先がいまいち読めず、「ちゃんとオチがつくだろうか……」とハラハラしながらの連載でしたが、読者の方の応援に助けられながら、最後まで楽しく書かせていただきました。また道中ハラハラしていただけに、無事に完結させられたときの嬉しさは忘れがたいものがあります。

――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。

やはり一番は家ホラーが好きな方、それも派手ではなく、じわじわ来る系の怪異が好きな方でしょうか。たとえば「誰もいないはずの部屋から足音がする」とか「いないはずの人の気配を感じる」など、些細な現象が積み重なっていくような話が好きな方とは、相性がいいのではないかと思います。

また本作に関しては、連載時から構成を褒めていただくことが多かったと記憶しています。物語の繋がり方を楽しみたいという方にも、お楽しみいただけるのではないかと思います。

ホラー小説ですので、やはり怖がっていただけたら嬉しいです。「家」が舞台の作品なので、ご自宅で一人のときなどに読んでいただくと、臨場感が増して、より怖さをお楽しみいただけるかもしれません。

自分にとって「小説を書く」ということは、できるだけ「楽しいこと」であってほしいという気持ちがあります

――小説を書くうえで、ご自身にとっていちばん大切にしていることや拘っていることをお教えください。

「あえて大切にしている」というよりは、「ここを外すと書けなくなってしまうので自然とそうなっている」という感じですが、「楽しく書く」というのが自分にとっては一番かなと思います。元々趣味としてやっていたことなので、自分にとって「小説を書く」ということは、できるだけ「楽しいこと」であってほしいという気持ちがあります。もちろん、大変なときや苦しいときがないわけではありませんが、基本的には楽しむ気持ちを大切に書き続けていきたいと思っています。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

とにかく楽しんで書いた作品ですので、読者の方にもお楽しみいただき、また怖がっていただけたらとても嬉しいです。また本作が含まれる「よみごさんシリーズ」ですが、カクヨムの方ではすでに長編六作目までと、本作のスピンオフにあたる「庭」が完結しておりますので、こちらも順次書籍化していけたらいいなと思っています。どうぞ応援のほど、よろしくお願いいたします。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

今回の書籍化をたくさんの方に祝っていただけたことです。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思いますか?

大抵いつも楽しんで執筆しているので、拙作を読んでくださる方にも同じくらいか、それ以上にお楽しみいただけるような作品をお届けできる小説家であればいいなと思います。

Q:おすすめの本を教えてください!

紹介したい本が多すぎるので、ここでは「子供の頃に読んで印象的だったホラー」に絞ってご紹介します。

■『HOLY ホラーコミック傑作選第1集』手塚治虫、ほか(KADOKAWA)

超豪華な著者陣が揃った名作ホラー漫画のアンソロジーで、どの作品も当然のようにすごく面白く、そしてすごく怖いです。このような本が実家の本棚に収まっていれば、怖いものが好きな子供は当然手にとってしまうわけですが、案の定いい感じのトラウマとなって心に残っています。とりわけ印象的だったのが美内すずえ先生の「白い影法師」で、キラキラした瞳の少女漫画らしい絵柄で描かれたホラーがこんなにも怖いのか……とクラクラしました。この作品を思い出すと、私は未だに机の下が怖くなります。

■『ひとりでいらっしゃい ―七つの怪談―』斉藤洋(偕成社)

確か小学校高学年のとき、小学校の図書室にあった怖い本をあらかた読んでしまって物足りなく思っていた頃に出会いました。「『ルドルフとイッパイアッテナ』と同じ作者だなぁ」と軽い気持ちで読み始め、「何これ怖い」と衝撃を受けた記憶があります。児童書ではありますが内容はきっちりホラーで、怪談の内容について意見を交わすパートが入るのも楽しいところです。タイトル回収も鮮やかで、自分もいつかこんなタイトル回収ができたらいいな……という憧れの作品でもあります。

■『バスにのらないひとたち』ジャン・マーク・著 三辺律子・訳(パロル舎)

中学校の図書室で借りたのですが、よくもまぁこんな怖い本を入れてくれたものだと、当時の司書の先生には陰ながら感謝しています。とにかく不気味なカバーや挿絵、意味深なタイトル、ぞわぞわするような怪現象、読後に残る不安な気持ち、そして「これは本当に大人が書いたのか?」と疑いたくなるほどの「自然な子供の視点」が感じられる描写など、色々な意味で素晴らしい一冊です。現在は新品での入手が難しいようなのですが、見かけたらぜひお手にとってみてください。


尾八原ジュージさん最新作『わたしと一緒にくらしましょう』

『わたしと一緒にくらしましょう』(尾八原ジュージ) KADOKAWA
 発売:2024年10月30日 価格:1,870円(税込)

著者プロフィール

尾八原ジュージ(オヤツハラ・ジュージ)

2023年に「第8回カクヨムWeb小説コンテスト」ホラー部門大賞受賞作『みんなこわい話が大すき』でデビュー。同年には「タヌキの一期一会」で「第3回角川武蔵野文学賞」ラノベ部門大賞も受賞している。

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