自分が想像する世界をみんなに共感してもらえるって、やっぱりすごいことだと思うんですよ(徳井)

パンダの推しごと!』徳井青空(クラーケン)

中村:徳井さんの絵本『パンダの推しごと!』も拝見したんですが、自由というか、すごく楽しんで描いているように感じました。

徳井:絵本のときは、マンガより「ここ、こうしましょう」っていうのもなく、ほぼおまかせでどうぞ、みたいな感じだったので、もう自分の中で何回も練って、考えて描いていったって感じですね。

中村:こういう声優以外の活動っていうのはどういうお気持ちではじめるんですか?

徳井:面白そうだからやってみる、っていうのがいちばんですね。好奇心が一番先かもしれないです。

井上:「もう描きたくない!」とか締め切り前のプレッシャーとか、そういうのはなかったんですか? 切羽詰まっちゃったりとか。

徳井:ライブもけっこうあったりしてなかなかマンガに手をつけられない時期もあったりしたんですけど、それでもやっぱり休まず描きたいって気持ちがあったんで、切羽詰まってもうギリギリっていうときも何回かあったんですが、もうそこは気合いで描きましたね。

井上:さすがの根性(笑)。

徳井:そうですね、根性です。やっぱり絶対に落としたくないって思ってたんで。シンプルな線だし4コマだから「すぐ描けるでしょ?」って多分思われるかもしれないんですけど、自分なりに満足のいくものを描きたいっていう気持ちでがんばりました。

中村:いや、でもやっぱり話を考えるのは大変ですよね。浩樹さんも、絵は地道に描くんですけど話を考えるのに時間がかかって。

井上:僕の場合はエッセイ漫画みたいな感じなんで、考えるっていうより思い出す作業だったんですけど。で、思い出したいんですけど、ボクシングをやっていたせいかなかなか記憶が……どんどんなくなってきて(笑)。小さいころの話を描こうとしても、記憶が飛んじゃってるんですよね。そのへんがいまの課題っていうか、もっと思い出して話を作っていこうっていうことが。

徳井:いや、私もあんまりないですよ。ボクシングやってないですけど、あんまり記憶は……(笑)。

中村:メモは取ったりはしないんですか?

徳井:私は、マンガ描いていたときはちょっと書いたかもしれないですね。

井上:本を出したときに僕のおじさん……あの、マンガにも出てくる従兄弟のお父さんですけど、そのおじさんにマンガを見てもらったときに、「これは続きも出すべきだ。2巻も期待してるから」と言われて。それで「ウチの親族たちは面白いことがいっぱいあるから、もっとメモを取ったほうがいいんじゃないの?」って言われて。まさかの“おじさんからアドバイスをされる”っていうことがありました。ついこのあいだです。それで最近は、ちょこちょこですが取ってますね。中村先生に教わった、LINEでひとりグループを作ってメモるっていうやり方で。

徳井:それはメモ用の?

中村:そう。LINEグループの中に「メモ」っていう、メンバーが自分だけの寂しいグループがあるんですよ。そこにメモっておくっていう。私もしております。

徳井:でも、井上さんのご親族はネタが尽きなそうですよね。

井上:そうですね。まあ、おもしろいことばっかりです。

徳井青空

中村:徳井さんはふだんから表に出る仕事で、それも「明日はコレ、明後日はコレ……」って毎日のように違うことをしていたり。そういう中での創作活動って難しくないのかなって思うんですけど、モチベーションはなんなんですか?

徳井:そうですねえ。やっぱり普段のお仕事はすでに作品があって、オファーがあって、お芝居をさせてもらって……っていう感じなので、みんなで作る作品の一部というか。そういう立ち位置なんですね。もちろんそれも、監督さんとかが目指しているものにみんなで近づけていって、その“応えられる楽しさ、嬉しさ”みたいなものがすごくあるので面白いんです。でもやっぱりマンガを描くのがもともと好きで、お話作ったりするのも好きだったので、自分がゼロから生み出す楽しみもあって。なのでモノ作りは、普段のお仕事とは別のベクトルの楽しさ、嬉しさなのかなあ、って思います。

中村:本ができたときって嬉しいですもんね。

徳井:そうですね。めちゃくちゃ嬉しかったですね!

井上:僕はまだ、あんまり実感できてないですね。

中村:あ、そうなんですか(笑)。 じゃあこれから実感してください。徳井さんが今後、挑戦してみたいことはなにかありますか?

徳井:そうですねえ……でも、やっぱりまたマンガは描きたいなって思いますね。いまは連載はしてないんですけど、ありがたいことに年に一度くらいで読み切りを描かせていただく機会があったりします。連載は連載でやっぱり大変なところもあるけど、やっぱりできあがった嬉しさもあるんで、またマンガを描いてみたいなと思っています。

中村:ご自身を題材としたマンガとかはどうですか? 浩樹さんみたいに。

徳井:そうですよね! そういうのも……。

井上:(超食い気味に)見たいですよね、ぜひ!

徳井:それこそ先ほど名前を出した『魔法少女★自宅ちゃん』っていうエッセイマンガがあって、それは本当に実際の声優の仕事のこととかを描いてあるような感じだったんですけど……やっぱり私も思い出せないんですよ、ほとんどの出来事を(笑)。記憶力がすごく無くて、どんどん忘れていっちゃうので。それなら、思い出して描くより新しいものを作り出したほうが向いてるのかなあって思います。

中村:絵を描く楽しさってなんでしょうか。僕は下手すぎて、全然感じたことがないんですけど。

井上:僕はいま、描くごとに少しずつですけど描けるようになってきてるっていう、ちょっとしたレベルアップを感じることが楽しいです。作品をSNSにアップしたときにいただくコメントとかも、励みになっています。そこがいちばんのモチベーションですね。

徳井:自分が描いた、自分が想像する世界をみんなに共感してもらえるって、やっぱりすごいことだと思うんですよ。絵にしろお話にしろ、自分の脳内のイメージを具現化して、それを面白いとか好きだなって思ってもらえるって……内面よりももっと内側のことをわかってもらえたような気がして。

井上:まず具現化することからして難しいですもんね。

徳井:そうですね。だからそれをマンガにできたときも嬉しいですし、共感したり面白いと思ってもらえたら、もうめちゃくちゃ嬉しいですね。……あ、挑戦といえば、あとあれも!

井上・中村:? 

徳井:井上さんはプロのボクサーだったじゃないですか。実は私の両親も空手家で、なにを隠そう格闘一家なんですよ。でも私はまだ一度も格闘技に挑戦したことがなくて。それで……果たして私に格闘技のセンスがあるのかどうか、いつか井上さんに見てほしいなと思ってます。

井上:(再び食い気味に)いや、それはもう、ぜひぜひ! ボクシングでよければ、20年の知識がありますのでいくらでも!

徳井:すごい! プロに見てもらうなんて! でも、もしかしたらまだ見ぬ才能が私の中に眠ってるかもしれないし。

井上:やっぱり格闘家の血が流れてると思うので、もしかしたら!

徳井:そうですよね、流れてはいるんですよ。少し前にプロレスを観に行く機会があったんですけど、やっぱりちょっと血が騒ぐというか、「私も闘わなきゃいけないんじゃないか」っていう気持ちに。試合を見てても、「かっこいい!」とか「がんばれ!」って思うよりも、「私の番がくるかも」っていう気持ちになってて(笑)。まだいちども試したことはないので、私に闘う才能があるのかどうか、いつか調べたいなと思ってます。

井上:ああもう、ぜひぜひ。お声がけいただければ喜んで伺います!


【井上浩樹プロフィール】

1992年5月11日、神奈川県生まれ。大橋ボクシングジム所属の闘うオタクボクサー。
第41代日本スーパーライト級王者。元WBOアジアパシフィックスーパーライト級王者。小学3年生からボクシングを始め、2015年12月にプロデビュー。16戦15勝12KO1敗。2020年7月に現役引退を表明したが……。世界的な知名度を誇る3階級王者・井上尚弥、その弟の元世界王者・井上拓真は従兄弟にあたる。

【徳井青空プロフィール】

12月26日生まれ。千葉県出身。声優、漫画家。
主な出演作は「探偵オペラ ミルキィホームズ」譲崎ネロ役、「ラブライブ!」矢澤にこ役、「ご注文はうさぎですか?」マヤ役など。漫画家としては「まけるな!!あくのぐんだん!」(全2巻)を連載。TVアニメ化も果たした。また、2018年12月には絵本「パンダの推しごと!」を発売。その他にも、千葉県南房総市観光大使を務めるなど、声優・漫画家としてだけでなく、幅広く活動している。


『ダレン・シャン(1)』新井隆広 (著)、ダレン・シャン (原作)(少年サンデーコミックス)

井上:本にハマったきっかけが小説の『ダレン・シャン』です。マンガはあんまり買ってもらえなかったんですけど、小説だったらいくらでも買ってくれる家庭だったので、「小説だったらいっぱい読めるじゃん」って思って。12巻くらい(外伝含め13巻)あるんですけど、待ちきれなくていつも発売日に書店に行って買った記憶があります。ライトノベルだったら『スレイヤーズ!』。あとマンガですが、やっぱり『北斗の拳』ははずせないですね(笑)。

こちら亀有公園前派出所(1)』秋元治(少年ジャンプコミックス)

徳井:私のバイブルは『こちら亀有公園前派出所』ですねえ。連載中、いちども休載なしで駆け抜けたっていうのがあって、それを見習って私も、「連載はゼッタイ落としちゃいけないな」って秋本イズムで乗り切ったので。リスペクトがあって。もちろん内容でも、自分の好奇心旺盛なところが、両さん(主人公・両津勘吉)のようにアクティブでフットワーク軽く、なんでも楽しんでっていうところに合うんだと思います。

あとは『愛…しりそめし頃に…』。子どものころから「いつか『ときわ荘』に住みたい!」って思ってました。ときわ荘を舞台に、若かりしころの実在の漫画家さんたちが登場して、誰かが連載を勝ち取ったり、ライバルであり同志でもあるみたいな関係で。それがめちゃくちゃ面白くて、読むと「ああ。私もマンガ描きたいな」って、創作意欲が湧くんですよ。

最近読んだものだと、イラストも描かれているYouTuberさんで「なつめさんち」の『それでも、やっぱり絵が描きたい!』という本も好きです。YouTubeでコラボとかもさせていただいたんですけど、「イラストが好きで、描くことを諦めきれないから、YouTubeで配信をはじめることにした」っていう気持ちを綴ったマンガなんですけど。私は、「誰かが絵を描きたがっている」っていうマンガが好きで、それを読むと私のモチベーションが上がるんです。だからこれを読んだときも「やっぱり楽しいことなんだな、絵を描くって!」って思いました。

『アオイホノオ』とかも大好きで、あれも島本先生がマンガ家になるまでのお話じゃないですか。それも共感と葛藤とがすごくあってめちゃくちゃ面白いし、「描きたいな」っていう気持ちにさせてくれる作品です。

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