ミュージシャンが文章を書いて発表することは何ら珍しいことではなくなりました。SEKAI NO OWARIのSaoriが藤崎彩織名義で出した『ふたご』(文藝春秋)は第158回直木賞の候補に。クリープハイプの尾崎世界観の『母影』も第164回芥川賞の候補になっています。

加えて“小説を音楽にするユニット”YOASOBIの『夜に駆ける』の大ヒットにより、文芸を音楽にするというかたちも完全に定着したと言っても過言ではない現在。

その双方向的な活動表現でまず思い浮かぶ存在と言えばロックバンド・筋肉少女帯のヴォーカリストである大槻ケンヂ氏ではないでしょうか。“オーケン”のニックネームでお茶の間にも広く知られる彼に、小説家でステキコンテンツ代表の中村航がミュージシャン×文芸が盛り上がる“この潮流”について質問してみました。

(聞き手:中村航 構成:相良洋一)


筋肉少女帯

――大槻さんは、執筆活動とミュージシャンとしての活動を両立する先駆けのような存在だと思います。現在、そういった活動をするミュージシャンが増えている状況について思うことはありますか?

大槻ケンヂ(以下:大槻):ミュージシャンの書く文章は、沢山読みたいですよ。気になるもの。とてもいい事だと思います。

――本をあまり読まなかった頃、大槻さんの著作を読んで、僕はとても興奮しました。当時も今も、ミュージシャンの書く小説には、そういった側面があるように思うのですが、大槻さんはどう思われますか?

大槻:そうですね。普段、小説を読まない層に小説を読ませる効果がありますね。これは実は重要なことかと。

――表現手段としての、音楽と執筆。大槻さんにとってそれぞれの違いはどんなところですか?

大槻:どちらももうからないですね(笑)。やっぱり執筆は最終的には個人作業なので、集団か個の違いかな。

僕は音楽をちゃんと学んだことがなくて、それがコンプレックスになっていて、音楽がわからない分、執筆で創作活動を補っているようにも思えます。

――二つの表現の関連などもありますよね。

大槻:たとえば「縫製人間ヌイグルマー」という小説は、最初に歌詞を作り、テーマ曲を作ってから小説を書きました。一つのテーマで音楽にも文章にも変化します。

縫製人間ヌイグルマー』大槻ケンヂ(角川文庫)

◆著作について

――ご自身が発表された小説作品で、特に印象に残っているものはありますか?

大槻:若い女優さんと対談するとたまに「『ロッキンホースバレリーナ』の七曲町子を演じてみたいんですよ、私」と言われます。あれはウレシイね。

――初めての著作は、エッセイ『オーケンののほほんと熱い国へ行く』(1991年)ですが、どんなきっかけで書き始めたのでしょうか?

『オーケンののほほんと熱い国へ行く(1991年)』大槻ケンヂ(新潮文庫)

大槻:椎名誠さんの旅エッセイが大好きで、そしたら学研にやはり椎名誠旅エッセイ好きの編集者さんがいて、「大槻さんも旅してエッセイ書きませんか?」と。でもあの時に執筆のオファーが無くてもいつか書いていたと思います。

――翌年には小説『新興宗教オモイデ教』を発表されてます。

大槻:当時、ミュージシャンに文章書かせるのが流行っていて、僕のところにも話が。冴えなかった高校時代の思い出を読んでいたSF小説と混ぜた感じですかね。

――とても忙しいなかでの執筆だったと思いますが。

大槻:エッセイは起きたらすぐ書いたりしてましたね。小説は25枚書くのに月に3日くらい他のスケジュールを入れないようにしていました。いろんな仕事をやってきましたが、小説が一番きつかった!

追いこまれるし、肉体に症状となって苦しみが出る。僕の場合は書いてるとデジャヴが連続して起こり、コワかった。

――デジャヴです。 ご自身にデジャヴが起こるなか、周囲の反応はいかがでしたか?

大槻:“勝手にやれば”とか“すぐやめるでしょう”くらいな感じでした。

◆読書体験

――読書好きと伺っていますが、読書の「原体験」的なものを教えてください。

『緋色の研究【新訳版】』アーサー・コナン・ドイル(東京創元社)

大槻:シャーロック・ホームズでした。「緋色の研究」。子供向けに「赤の怪事件」と訳されていたけど、それでで読書の楽しさを知って、その後に江戸川乱歩を読むわけですね。「魔術師」というドロドロの怪談に直撃受けました。

――文章を書くことは好きだったんですか?

大槻:好きでした。作文と詩だけは先生にほめられた。小二の時にバラバラ殺人事件のミステリを書いたりしてました。中学の時、ビックリハウスの小説賞「えんぴつ賞」に散文詩のような掌編を送って、選外佳作だったけどうれしくて。高校の頃は、校内感想文コンクールで優勝しました(笑)。読んだのは「老人と海」だったなぁ。

――自発的に文章を書こうと思って書きはじめたのはいつごろ、どんなきっかけだったんでしょう?

大槻:学生の頃に、話し言葉でエッセイなどを書く流れがあって、「このライトさならオレもできるかも」と勘違いしたことです。

◆今後の活動について

――今後の執筆の構想などはありますか?

大槻:一時期、月産100枚以上書いていて、そして40歳の時に筋肉少女帯が再活動してからは書くのをちょっとお休みしたら、「もう一行一文字も書きたくない!」と思ってしまって……。今はちょこちょこエッセイは書いてます。小説は……いつか。

――今は音楽活動に重きを置いてらっしゃる感じですかね。そして新譜がリリース間近だそうで?

大槻:筋肉少女帯のニューアルバム「君だけが憶えている映画」、11月3日発売です。よろしくお願いします。

ありがとうございました。


■プロフィール

大槻ケンヂ

ミュージシャン・作家。 1966年2月6日生まれ。ロックバンド「筋肉少女帯」「特撮」のボーカリストとしての活動のみならず、小説家やエッセイストとしても活躍している。著書は多数あり、1994年『くるぐる使い』、1995年『のの子復讐ジグジグ』で、日本SF大会日本短編部門「星雲賞」を2年連続で受賞。ほかにも『グミ・チョコレート・パイン』『ロッキン・ホース・バレリーナ』『ゴスロリ幻想劇場』『ロコ! 思うままに』など。

アルバム情報

筋肉少女帯2年振り待望のオリジナルアルバム『君だけが憶えている映画』

2021年11月3日(水)発売

TKCA-74993 CD+DVD(初回生産限定盤)¥4,950(税込)

TKCA-74994 CD only(通常盤)¥3,300(税込)


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