今年も、文芸にまつわるトピックの多い年となった。

昨年、小説投稿サイト発の小説を音楽にするユニット、YOASOBIの「夜に駆ける」が大ヒットし、Youtubeでの再生回数が1億回を超えたことは記憶に新しいだろう。今年には日本武道館でライブを行うなど、その勢いは衰えることない。

Twitterから生まれた小説家の興隆も、トピックの一つだ。

燃え殻の小説を映画化した、『ボクたちはみんな大人になれなかった』が今年公開され、カツセマサヒコの小説を映画化した、『明け方の若者たち』も今年の12月31日に全国公開されるなど、話題になっている。

Twitterで人気のある著者の投稿を書籍化する例は、エッセイなどでは以前からよく見られたが、Twitterでの人気をきっかけとして小説家としてデビューするというのは、ここ最近の動きだろう。この流れは、今後も続いていくのだろうか。

TikTok発のヒット小説が生まれているのも、注目のトピックだ。

今年、動画クリエーターのけんごがTikTokで紹介したことがきっかけとなって、筒井康隆が1989年に刊行した『残像に口紅を』が重版となり、話題となった。

その後も、けんごがTikTokで紹介した小説は続々とヒットしている。

トピックの多い文芸の世界だが、近年、注目したい作品が数多く刊行されている。

今回は、今年読んだなかから僕が特に注目した作品を3作品、紹介したいと思う。

朝井リョウ『スター』

映画監督の登竜門として知られる、「ぴあフィルムフェスティバル」のグランプリ受賞のインタビューシーンから物語は始まる。

インタビューを受けているのは、本作の主人公である立原尚吾と大土井紘の2人。

大学在学中に映画制作の世界に華々しくデビューした2人だが、大学卒業とともに、尚吾は有名映画監督の弟子として映画会社へ、紘はYoutube番組の制作の道へと進む。

求められるものが全く異なる対極的な環境のなかで、作品にとって本当に大切なものは何なのか、仕事や、職場の先輩や料理人を目指す恋人などの周りの人々との対話を通して、2人はそれぞれの考えを深めていく。

複数の登場人物のなかでも、特に若者の人物造形に、身近にいそうなリアリティがあり、そこには、『何者』などで現代に生きる生々しい若者を描いてきた作者の経験が生かされていると思った。

実在する「ぴあフィルムフェスティバル」の名前が作中に登場するなど、映像制作に取り組む2人を取り巻く環境のリアリティ溢れる描写にも、映画会社に勤務していたという作者の経験が表れているように思う。特に、紘の取り組むYoutube番組の制作現場における紘の悩みは現代的で、尚吾の取り組む映画制作の伝統的な環境における尚吾の悩みと対比されることによって、現代において本当に大切なものは何なのか、考えさせられた。

本作で主人公たちの考えに触れながら、大切なものは何なのか考えてみては、いかがだろう。

後編へ続く

著者プロフィール

伊波真人(いなみ まさと)

 歌人。著書に歌集『ナイトフライト』など。

(Visited 252 times, 1 visits today)