2021年に『水を縫う』で第9回河合隼雄物語賞(選考委員は小川洋子さん、後藤正治さん)を受賞され、注目を集めている作家、寺地はるなさん。

 最新作『タイムマシンに乗れないぼくたち』は、世間の「普通」や「常識」に馴染めず、居心地の悪さや寂しさを感じている人たちを描いた短編集です。

 本書について、執筆中のエピソードや、小説を書くうえで大切にされていることなど、寺地はるなさんにお話を伺いました。

気楽に読んでいただけたらと

――『タイムマシンに乗れないぼくたち』について、これから読む方や購入を検討されている方へ、内容を教えてください。

 七つの短編が収録された短編集ですので、すきま時間に読んでもらうことができます。連作ではありませんが、全体的に孤独な人たちの話が集まったな、と自分では思っています。

 その孤独に苦しみ、打ち勝とうとするわけではなく、孤独と運命をともにしながらも、ささやかな喜びを得て楽しい日々を生きていくことを選ぶような人たちのお話です。

「二度読み必至!」とか「号泣まちがいなし!」といった作品ではまったくないので、気楽に読んでほしいです。

 原稿を書いている最中たびたび情緒不安定になって自分の腕の毛を毟りとって痛みに泣きながら書いたりもしましたが、そんなことは読者のかたには関係ありませんので、ほんとうに気楽に読んでいただけたらと思っています。

――本作を描こうとされたきっかけを教えていただけますでしょうか。

 一つ一つお話していくときりがないので『灯台』という短編についてだけ、お話します。

 フィクションには『主人公の友人』が登場します。主人公をさりげなくサポートし、精神的ピンチにかけつけ、世話を焼いてくれ、名言みたいなアドバイスをくれる。そしてなにがあっても絶対に主人公の味方。

 わたしもつい、そういう人物に頼りがちです。身もふたもない言い方をすると、便利だから。一定数の人気が得られるから。

 でも彼らはその心のうちでいったいどんなことを思っているのだろう、物語の脇役である自分に満足しているのだろうか……というところからはじまった小説です。

いざ書いてみたら博物館の話になっていました

――ご執筆にあたって、苦労されたことなど、執筆時のエピソードがございましたらお聞かせください。

 短編を書くのが好きでいくらでも書きたいからとお受けした不定期連載の依頼でしたが、これはだめだな、と思ってセルフ没にした短編がいくつもあります。

 単行本に収録されているのは七つですが、確実にその倍の量は書いていると思います。

 連載後半で「水族館のお話なんてどうですか」と提案され「いいですね!」と答えたのに、いざ書いてみたら博物館の話になっていました。(「タイムマシンに乗れないぼくたち」)どうしてなのか自分でもよくわかりません。

――どのような方にオススメの作品でしょうか?

 大人になってもたまに横断歩道の白いところだけ選んで渡っているような人におすすめなのが『コードネームは保留』。

「推し」という言葉が誕生する前の時代に青春時代を過ごした人には『深く息を吸って、』。

 ロマンスが苦手な人には『口笛』です。

 いちばん誰にすすめていいのかわからないのが『夢の女』ですが、趣味で小説を書いていた過去がある人はある意味刺さるかもしれません。

自分の苦手なタイプの人を、あえて書きます。

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることや、こだわっていることをお教えください。

『夢の女』には私の苦手なタイプの女性が出てきます。どの作品にも、ひとりは出てきます。

 いつも考えるのは、「私は私の創作物の中で、いくらでも嫌いなタイプの人間を排除できるし、いくらでも自分好みの世界を構築できる」ということです。できてしまうんです。でもそんな創造神気取りみたいなノリで書いてはいけないんだぞと肝に銘じています。

 だから自分の苦手なタイプの人を、あえて書きます。

 小説は現実から逃げるものではなく、現実に立ち向かうための力だと思うから、書く側が目をそらしていてはだめなのです。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします!

 まずはお身体を大事に、ということです。

 よくお手紙をいただくのですが、みなさんほんとうにふだんから真摯に生きていらっしゃるのだなということが伝わるお手紙ばかりです。

 いつも励まされています。ありがとうございます。

 職場・学校・家庭などの「普通」に馴染めず、ひとりでいる人たちが、それぞれの短編に出てきます。その人たちは、寺地さんがおっしゃる「苦手なタイプの」人によって、心ない言葉をぶつけられたり、笑われたりします。

 容姿についてだったり、結婚しないのかなど、悪意なく傷つけてくる世間とのあいだに、壁を感じた体験は、誰にでもあるのではないでしょうか。とは言っても、作品は全体的にユーモラスで、くすっと笑ったところがたくさんありました。

 ひとりで生きづらさを抱える人を、がんばれと励ますのではなく、話を聞いて、ただ寄り添ってくれるような物語。気楽に読みながら、いろんなことを思い出し、読み終えたら、心の奥が静かに温まりました。

 おすすめです!


Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

 ノートパソコンを置く台(角度が変えられる)を買ったら慢性的な肩こりがなくなったことです。

 あと最近「ぴよこ豆」というキャラクター(黄色くて小さくてとてもかわいい)がお気に入りで、グッズをいろいろ買っていたら居間がどんどん黄色くなり、なんとなく縁起が良さそうな雰囲気が生まれました。楽しいです。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

 じつを言うと、あまり「私は小説家だ」と実感する機会がないです。

 ずっと家にいるからかもしれません。したがって、自分がどんな小説家かと言われてもいっさい思いつかないのですが、いつも思うことは「自分にはなにもない」ということ。

 センスとか素養とか技術とか、そういうものをいっさい持たずに運よく小説を書く仕事を得た、と感じています。

 でも毎日同じ時間、同じ熱量で小説に向き合うことができるし、それはとても大切なことだとも思っています。

Q:おすすめの本を教えてください!

・『記憶する体』伊藤亜紗 春秋社

・『地上で僕らはつかの間きらめく』オーシャン・ヴォン 新潮社

・『マンガ脚本概論』さそうあきら 双葉社

 好きな本はありすぎて選べないので、直近でおもしろかったもの、まだおすすめとして挙げたことがない本を選びました。

 本には単純に楽しい読書時間をくれる本と、読んでいて「ああ、小説を書きたいなあ!」という、なんだかいてもたってもいられないような気分にさせてくれる本があるのですが、この三冊は後者でした。


寺地はるなさん最新作『タイムマシンに乗れないぼくたち』

『タイムマシンに乗れないぼくたち』(寺地はるな) 文藝春秋
 発売:2022年02月08日 価格:1,650円(税込)

著者プロフィール

寺地はるな (テラチ ハルナ)

 1977年、 佐賀県生まれ。 大阪府在住。 2014年、『ビオレタ』で第4回ポプラ社 小説新人賞を受賞しデビュー。 2020年、『夜が暗いとはかぎらない』が第33回 山本周五郎賞候補作に。 令和2年度 「咲くやこの花賞」 (文芸・ その他部門) 受賞。 2021年『水を縫う』が第42回吉川英治文学新人賞の候補作となり、第 9 回河合隼雄物語賞を受賞。『大人は泣かないと思っていた』『今日のハチミツ、 あしたの私』『ほたるいしマジカルランド』『声の在りか』『雨夜の星たち』『ガラスの海を渡る舟』 など著書多数。

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