小説投稿サイト「ステキブンゲイ」で昨年10月からスタートした、小説家・椹野道流さんによる連載エッセイ『晴耕雨読に猫とめし』。「ナニヨモ」でも、11月に椹野さんのインタビューを掲載しているので、ご存じの方も多いでしょう。
去る1月17日、「ステキブンゲイ」のYouTubeチャンネル、「ステキチャンネル」にて、著者の椹野さんと「ステキブンゲイ」キャプテンである小説家・中村航さん、そして両者の縁を取り持った、本サイト不定期コラム『吼えろ!鬼瓦道場』でおなじみのカリスマ書店員・鬼瓦レッドさんにより、『晴耕雨読に猫とめし』を語る特別鼎談がライブ配信されました。
今回は、エッセイの裏側もたっぷり語られたその模様を再録してお届けします。

鼎談の模様はこちら:【特別企画】椹野道流・中村航・鬼瓦レッドが鼎談!『晴耕雨読に猫とめし』を語ります!

身の回りのことをサラッと書くのが、恥ずかしいというか苦手というか(中村) 

中村航(以下・中村):みなさん、こんにちは。小説家の中村航と申します。
椹野道流(以下・椹野):私も、小説家の椹野道流と申します。よろしくお願いいたします。
鬼瓦レッド(以下・鬼瓦):明正堂の増山です。司会進行を主にやっていききます。
中村:あ、じゃあもう、おまかせしちゃって大丈夫なんですね。それより鬼瓦さん、25キロのダイエットをされたとか?
鬼瓦:そう、コロナでヒマだったんで、痩せました。
椹野ヒマで痩せる人って珍しいよねえ。ヒマで太る人はいるけど。
鬼瓦:はい。それはさておき、まずは航さんから。「ステキブンゲイ」というのはそもそもなんぞや? というところを。
中村:はい。「ステキブンゲイ」は小説投稿サイトなんですが、ざっくりライトノベル以外を載せましょうという投稿サイトです。私もそこで連載してますし、誰でも連載できます。鬼瓦さんもぜひ!
鬼瓦:はい。はいじゃないよ(笑)。
椹野:はいって言った(笑)。
鬼瓦:航さんはそこの代表なんですよね。
中村:そうですね。運営をやっております。いろんな人が書いてくれて、僕もそうですし、作家のいぬじゅんさんとか、WEAVERのドラマーの河邉徹くんとか、お笑いコンビ、ザ・ギースの高佐さんの連載もはじまります。そして、今日の本題ですけど……。
鬼瓦:(昨年の)10月20日から椹野道流先生のエッセイがはじまりました。
椹野:お世話になっております。
鬼瓦:毎週水曜日に更新しております。
中村:こちらは鬼瓦さんのご紹介ではじまったんですよね。
鬼瓦:そもそもどうしてかっていうと、私が椹野先生とのお話の中で、椹野先生のエッセイがお上手でずっと好きだったので、「エッセイをお書きにならないんですか?」って訊いたら、椹野先生が「書きたい!」って。でもどこもオファーがエッセイでは来てないって。
中村:確かに、エッセイのオファーって、ないんですよ!
椹野:意外に、ね。
中村:雑誌に……ご挨拶みたいな感じでオファーが来るんですね。「ひとまずエッセイ書きませんか?」って。それで連絡先とか交換して、エッセイ1本終わって、「では、小説の打ち合わせに入りたいんですけど」って、おもむろに(笑)。
椹野:(笑)。名刺代わりにってことですね。ジャブをシュッと打ってくるだけ(笑)。
中村:僕はエッセイに苦手意識があって、あんまり書いてないんですよ。エッセイが苦手な作家さんって、でもあんまりいないかもしれないですね。小説家の人のエッセイってだいたいおもしろいですよね。
椹野:好きだからかな? 私も、でもほら、「どくとるマンボウ」(小説家・北杜夫氏によるエッセイシリーズ)で育ったから、小説家はエッセイ書くもんだと思ってたので。
中村:そういうイメージありますよね。僕はブログも苦手だしツイッターも苦手だし、の延長にエッセイ苦手、というのがあります。
鬼瓦:ツイッターはあんまり更新してないですよね。「やってる」って言い張ってるけど(笑)。
中村:すごい、圧が(笑)。
椹野:(爆笑)。
中村:そうなんですよ。なんかだから……代わりに誰かやってくれないかなあ、みたいな。
鬼瓦:小説を書いたほうが楽っていうか、簡単なんですか?
中村:簡単というか、性に合ってる。だから構築していくのがたぶん好きなんでしょうね。身の回りのことをサラッと書くのが、恥ずかしいというか苦手というか。テーマがないと、だからエッセイって書けなくて。「チョコレートをテーマになにか書いてくれ」って言われれば、1個くらいエピソードってなにかあるじゃないですか、チョコレートの。それだとまだ書けるんですけど。ご自由にどうぞって振られたときは、だいたい昔の話を書いてきたんですね、小学生のころの話とか中学生のころの話とか。それがだいたい一巡しちゃったんです。
(一同爆笑)
中村:もう書くことがない。思い出がないんですよ(笑)。
椹野:もう振り返る過去がない(笑)。
中村:僕は最初、自分はエッセイが得意だと思ってたんですよ。
鬼瓦:うん、私も得意だと思ってました。はい。
中村:いっぱいおもしろエッセイ、書くぞ! とか思ってたんです。でも、「あれ? もう書くことないな」ってなったとき、それまでに書いたエッセイを集めて、エッセイ集を出したくなった。だけど一冊になるほどたくさんあるわけではなかったんです。だから、それまでに書いた、過去の思い出エッセイを、全部小説に書き直して……。
椹野:なるほど。
中村:……「男子五編」っていう小説にして(『あなたがここにいて欲しい』に収録)、五編っていうのは「小編」「中編」「高編」って、要は小学生編、中学生編って続く。つまりエッセイを小説に再編集し、それで僕のエッセイ歴が終わったというか(笑)。
椹野:(爆笑)。
中村:もう満足したところがある。
鬼瓦:へえ~。それで私が、またいつものようにざっくり、航さんに「椹野先生っていう作家さんがいて、エッセイを書いてほしいので、ぜひっ!」って言って。そしたら……。
中村:はい。それを僕も、実にあっさり「じゃあやりましょう!」って(笑)。それはでも、なんでかって言うと、プロフィールとかお伺いして「エッセイのネタがめっちゃありそう」って思ったんですよね。

医学部を受けるだけ受けてくれないかと言われて(椹野)

鬼瓦:はい、ここでみなさんに、もちろん椹野先生のファンの方はもうとっくにご存じだと思いますけれども、先生、いつも自己紹介しているような感じで。
椹野:そうですね。……どこからはじめればいいんだろうねえ?
鬼瓦:ねえ。
椹野:とりあえず、もろもろあって大学の医学部に入ったところからはじめますか。
中村:医学部!?
椹野医学部に、うっかり入っちゃったんですよ。
中村:うっかり? 医学部っていうのは、お医者さんになりたい人が行くところですよね?
椹野:そうなんですけど、ウチは父が医者で、「子どもが医学部に入った瞬間を味わいたい」と。受けてくれればいい、ダメだったらそれでいい」って。お前の本命は本命で目指していいけど、医学部を受けるだけ受けてくれないかと言われて。
中村:ええ~っ?
椹野:「じゃあ、受けるだけね」って受けたら、通っちゃったら「俺がスポンサーだ!」って開き直られて。「ええ~っ!?」って言ってるうちに医学部入ることになっちゃって。
中村:ちなみに、ほかはどういうところ受けてたんですか?
椹野:農学部と史学部を受けてたんです。だから歴史をするか、農業をするか。その二択だったんです。
中村:それも、まず、文理またがっちゃってますよね(笑)。
椹野:(自分は)ド文系だったんですけど。生き物がすごく好きだったんですよ。虫と植物がすごく好きだったので、これは農学をやるしかないだろうと。女子高だったんで理科方面はもう壊滅的に弱い学校だったんですよ。だから生物と化学は自分で勉強しました。受験用の勉強ってできるじゃないですか。本当の勉強って自分じゃできないけど。
中村:記念受験のような感じですか。
椹野:はい。だから予備校も行ったことがなかったんです。受験勉強をしなかったんですよ。みんなちゃんと休み時間には参考書をチェックする、みたいなことを全然してなくて、受験の当日に『銀英伝』が出たんですね。
中村:ぎんえい……?
椹野:あ、『銀河英雄伝説』です。田中芳樹先生の。新刊が出たから、大喜びでそれを買って、「読むならおやつもいるな」って家出るときにチョコ持って行って、昼休みに推しが死んだんですよ
中村:『銀英伝』の?
椹野:『銀英伝』の推しが死んだんですよ。
中村:昼休みに死んだわけじゃなくて(笑)。
椹野:そうです(爆笑)。
中村:昼休みに読んでたら、お亡くなりになったんですね(笑)。大変ですね。
椹野:大変なんですよ(笑)。午後から、その乱れた心のままで小論文だったんですけど、小論文の課題なんて頭に入らなくて。もう「小論文どころではないんだ!」っていう文章を、字数ぎっちり書いて、シャンッて出して帰ってきたんで、「終わった」って思ったんですけど。小論文の採点した先生が遊び心ありすぎた先生で、「おもしろい!」って言って。「俺はこの『銀英伝』買って読んだ」って(爆笑)。
中村:『銀河英雄伝説』のことを小論文に書いたんですね?
椹野:そうなんですよ。だから「ヤン(・ウェンリー)が死んでしまってそれどころではない」っていう気持ちを一所懸命書いたんです。
中村:それは医学部の試験で、ですよね。
椹野:そうですそうです。
中村:まあでも……銀河の英雄が死んで、医学の限界を感じたとか、そういうこではなく?(笑)。
椹野:いえあの、「出血多量で死ぬ」みたいなことを切々と書いたんですけど、「プレゼン力がすごい」みたいなことを言われて、妙に高評価だったらしくて、合格して。まあ、それだけではないと思うんですけども……。

■【PART2】につづく

 

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椹野道流(ふしの・みちる)プロフィール

兵庫県生まれ。1996年、『人買奇談』で講談社の「第3回ホワイトハート大賞」のエンタテインメント小説部門で佳作を受賞し、翌年1997年に同作品でデビュー。同作に始まる「奇談」シリーズは、人気を集めロングシリーズとなった。1999年に『暁天の星 鬼籍通覧』でスタートした「鬼籍通覧」シリーズや、2005年にスタートした「貴族探偵エドワード」シリーズなど、多くのロングセラーを持ち、魅力的なキャラクター描写で読者の支持を集めている。2014年にスタートした、料理がテーマの青春小説でファンタジックストーリーが魅力の「最後の晩ごはん」シリーズは、芦屋市が主な舞台の人気作品。2017年にはシリーズ累計発行部数60万部を突破し、2018年にドラマ化もされた。近著に『ハケン飯友 僕と猫の、食べて喋って笑う日々』『モンスターと食卓を 3』など。また小説家として活躍する一方で、医師としても活動し、医療系専門学校で教鞭も取っている。
Twitter: https://twitter.com/MichiruF
ステキブンゲイ連載『晴耕雨読に猫とめし』(毎週水曜更新)

鬼瓦レッド(おにがわら・れっど)プロフィール

東京・明正堂書店上野店(アトレ上野内)に勤務するカリスマ書店員。明正堂書店のYouTubeチャンネルではお薦めの小説情報を語る「吼えろ!鬼瓦道場」の配信も行なっており、同番組は不定期で「ナニヨモ」にも再録されている。
明正堂書店HP:https://www.meishodo.co.jp/
明正堂書店YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCSZgp6MBq44xP-zR03fxPrQ
Twitter(明正堂書店アトレ上野@お知らせアカウント):https://twitter.com/K92style

中村航(なかむら・こう)プロフィール

1969年生まれ。2002年『リレキショ』にて「第39回文藝賞」を受賞し小説家デビュー。続く『夏休み』『ぐるぐるまわるすべり台』は芥川賞候補となる。ベストセラーとなった『100回泣くこと』ほか、『デビクロくんの恋と魔法』『トリガール!』など、映像化作品多数。アプリゲームがユーザー数全世界2000万人を突破したメディアミックスプロジェクト『BanG Dream! バンドリ!』のストーリー原案・作詞など、小説作品以外も幅広く手掛けている。近著に『広告の会社、作りました』など。小説投稿サイト「ステキブンゲイ」において、自らの半生をモチーフにした『SING OUT LOUD!』を連載中。
中村航公式サイト:https://www.nakamurakou.com/
Twitter:https://twitter.com/nkkou
ステキブンゲイ連載『SING OUT LOUD!』(毎週土曜更新)

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