お笑い芸人として活躍し、これまでに2冊のエッセイを出されている紺野ぶるまさんが、初の小説となる『特等席とトマトと満月と』を書かれました。

 “芸人としては”美人で背も高くスタイルも悪くない20代なかばの女性芸人ムシナの心情や、芸人たちの葛藤を生々しく描いた話題作。

 紺野ぶるまさんにお話をお聞きしました!

目も当てられないダサさを楽しんで

――『特等席とトマトと満月と』について、これから読む方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。

 20代半ばの女の子が芸人を目指していく話です。なぜ「面白くなりたいのか」そしてなぜそれだけに一生懸命にならないのか。

 トークにもネタにもならないようなうだつの上がらない恋愛を続けてしまうだらしなさとか、実家から出れない惰性とか、目も当てられないダサさを楽しんで頂きたいです。

――本作を描こうとされたきっかけを教えていただけますでしょうか。

 幻冬舎さんのオフィスに飛び込んでネタを見てもらうっていう機会があったんです。なんだそれ、と思われるかもしれませんが幻冬舎さんも「なんだこれ」だったと思います。

 松竹の方がノリで組んでくれたことなんですが、わたしは書くことにすごく興味があったのでそれが何につながるかもわからないまま、なんとなく「爪痕残したい」とR-1ぐらいの緊張感でネタをやらせて頂きました。

 そこで声をかけて頂いて「書いてみないか」と。「なんなら書ける?」と聞かれ「女芸人のことしか書けません」となり、「小説とはなにか」から教えて頂きました。あの特別講義はたぶん一時間ウン万の価値があると思います(笑)

 本当に皆様におんぶに抱っこで完成したものです。

仕事や恋愛で感じる、違和感や悩みや苛立ちを

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、執筆時のエピソードをお聞かせください。

「これどう終わってくんだ?」という不安がずっとありました。なにか大きな出来事や成功、失敗、転機みたいなのが起こる方がいいのだろうかとか。

 一度グッと盛り上がるようなそういう章も書いたのですが、編集者さんに「こういうのが起こらないのがムシナの個性」と言って頂いてまるまる2章節捨てたこともあります。そこで「身近な人すら納得させられない中途半端な夢追い人」の輪郭がくっきりして書きやすくなりました。

――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。

 それはもうこの世の全ての方に届いて欲しいです!(笑)

 お笑い好きの人はもう絶対、でも意外とそうでない人に読んでいただくのが楽しみです。テーマは「女芸人」ですが、仕事や恋愛をしていたら感じる違和感や悩みや苛立ちを書いたつもりです。

「嘘をついてない」爽快さを継続するように

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

 仲のいい女友達に話を聞いてもらう時に「いまわたし素直に本音と向き合えてるな」という感覚がすごく好きなんですが、書いてる時はそういう「嘘をついてない」爽快さを継続するようにしてます。嘘をついている人を書いていてもそれを書きたいという心に嘘はついてない状態。

 胸が詰まる感覚がしたらその行は消すし、読み返してもすごいつまらないものなんです。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

 タイトルに入っている「特等席」。小説の中でも結構重要なワードになってます。書きながら、私にとっての「特等席」とはなんだろうとよく考えていました。

 他人にどう評価されようが時に鼻で笑われてもそこを「特等席」と言い切れる場所がわたしにはあるのかと。唯一思いつくのは手応えのある賞レースの結果を待つ椅子でした。だけど少し自信がありません。なんだか他人の評価あってのものな気がするからです。

 そんなわたしには物語に出てくる「特等席」が時に眩しく、時に鬱陶しくもありました。もし機会があればこれを読んで下さった方の「特等席」を聞いてみたいです。

 主人公が女性芸人であることによる、女性芸人ならではの心理描写に冒頭から引き込まれました。彼氏に芸人であることを隠したり、同じ劇場の男性芸人に対する視線など、もやもやを抱えながら生きる姿に、読者は男女問わず共感するものと思います。

「書いてる時は『嘘をついてない』爽快さを継続するように」書かれたという、紺野さんの小説に対する姿勢がとても誠実で、だからこそ、これほどまでに心に響くものがあるかと静かに感動しました。おすすめです。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

 paypayを使いこなしてポイントをめっちゃ貯めたことです!

 一週間くらいpaypayの虫になりどうしたら還元されるかめちゃくちゃ勉強したんです。なんでも聞いてください。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

 作家と名乗るの烏滸がましいです!

 とか、「おこがましい」を「烏滸がましい」と書くことを変換に出て来てはじめて知ったのに我が物顔で使っちゃう小さい芸人です、私は、ええ、もう。

Q:おすすめの本を教えてください!

 幻冬舎さんの小説を教えてもらう会でおすすめされた見城徹さんの「読者という荒野」めちゃくちゃ勉強になりました!

 芸人の先輩が書く本が大好きです。とくに有吉さんのノウハウは10年以上前に読んでから私生活にかなり根付いてます。繊細が故に時に効率を優先して生きることを選んだほうが楽な時があるんですよね。

 同じ事務所の弁護士三輪紀子さんに頂いて最近知りました。日々自分の中に芽生える「なぜ?」「どうして?」を一つ一つピンセットで解剖してこれはどこからきて、どこに向かっていくのかを漫画にしててカウンセリングを受けてるような気持ちになります。田房永子さんもほとんど読破してます。


紺野ぶるまさん最新作『特等席とトマトと満月と』

『特等席とトマトと満月と』(紺野ぶるま) 幻冬舎
 発売:2022年04月27日 価格:1,650円(税込)

著者プロフィール

紺野ぶるま(こんの ぶるま)

1986年、東京都出身。お笑い芸人、エッセイスト。『R-1ぐらんぷり』では、2017年・2018年2年連続ファイナリスト。『女芸人No.1決定戦-THE W』では、2017年・2018年・2019年3年連続ファイナリスト。著書に『ネタ論』(竹書房)、『「中退女子」の生き方〜腐った蜜柑が芸人になった話〜』(廣済堂出版)、『特等席とトマトと満月と』(幻冬舎)

 

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