シンガーソングライターであり小説家でもある黒木渚さんが、ご自身のベストアルバムと同名の小説『予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる』を刊行されました。音楽×小説×青春という軸で、黒木渚さんの多彩な感性が発揮された一冊です。
刊行にあたり、黒木さんに執筆のきっかけや、執筆中のエピソードなどをお聞きしました。
黒木さんの描いた、“ちゃんと青い”小説
――本作について、これから読む方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。
誰もの中に共通しているくせに、誰とも分かち合うことのできない「青春」というものを書こうと思いました。痛くて、考え足らずで、傲慢で、臆病で、そういう時代を過ごさなければ人は成長できないように作られているのだと思いました。
――本作を描こうとされたきっかけを教えていただけますでしょうか。
担当編集さんから「黒木さんの描いた、“ちゃんと青い”小説を読んでみたいです」と言ってもらったことがきっかけでした。これまで私は奇妙な設定の話や、ネガティブな内容の話を書くのが好きで、そういう系統のものばかり書いていましたが、言われてみればそんな私が描く青春ってどんな感じなんだろうと自分でも興味が湧いてきました。
また、自宅の向かいに24時間営業のスーパーがあるのですが、そこで深夜バイトをしているおじさんと親しくなったことも着想の一部です。互いの名前も経歴も何も知らず、毎晩顔を合わせて世間話をする私たち。私はおじさんに何か暗い過去を感じていますが、訪ねたことはありません。しかし、おじさんからすれば、毎晩夜中に来ては大量の酒を買っていく私の方がまともではないと思うのです。そういう関係性をリアルに描いてみたいなと思っていました。
「うわあ、やっかいな奴と知り合ってしまったな」という感覚
――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、執筆時のエピソードをお聞かせください。
主人公・シッポの友人、カコ様がここまで暴走するとは思っていませんでした。
わかりやすく「ヤバい奴」枠で彼女を描き始めたつもりが、どんどん過激になってゆくし、途中から手がつけられないほど病んでいったし、とにかく「うわあ、やっかいな奴と知り合ってしまったな」という感覚で書きました。
カコ様の持っている痛さと、主人公のシッポの痛さは同じメンヘラに見えて実は明確な差があると思っています。シッポのは大人になれば「黒歴史」で片付きますが、カコ様は病み自体が彼女の骨格なのでどうにもならないのです。私がそれを知ったのは半分以上この話を書き終わった段階でした。
――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。
自分には「芯」が無いなあと感じている人。
または「芯」ってなんだろう? と考えている人。
読みどころとしては、音楽に関する描写は私の音楽的な感覚をそのまま書いたものだというところです。音楽家として現役で働いていることをこんなにラッキーだと思ったことはありません。笑
準備したあと、それらを全て無視して書く
――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。
すごく細かく設定や構成を考えて、プロットや図解をつくって準備したあと、それらを全て無視して書くこと。じゃあ始めから自由に書けばと言われそうですが、何故か一度きちんとしてからでなくてはできません。
――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。
主人公のシッポちゃんが作った楽曲、実際に聴けますよ。
私のベストアルバムやワンマンライブの中に彼女の精神性を散りばめています。
中学時代からの片思いの相手、森園太陽に接近するために軽音部に入った高校二年の「シッポ」。シッポの太陽に対する胸苦しいほどの恋愛感情に圧倒されます。そして、シッポの同級生のカコ様の、やばすぎるキャラクター。彼女たち自身でもコントロールできないほどの、溢れるエネルギーが衝突し、それが音楽・バンドと混ざりあってドバドバ流れていくような読書体験は、まさに書名にある「予測不能」であり「濁流」のようだと感じました。すごかったです!
黒木さんのベストアルバムのオフィシャルミュージックビデオはこちらでご覧になれます。
Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?
「あー若くて賢くてめちゃくちゃで強い女の子が目の前に現れないかな〜」と思っていたら、その通りの女の子が現れて友達になれたこと。
Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?
みなさんが想像するよりも、五倍くらいは元気な人間だと思います。(心身ともに)
Q:おすすめの本を教えてください!
・石井遊佳さん 「象牛」
・佐川恭一さん 「アドルムコ会全史」
・西村賢太さん 「小銭を数える」
黒木渚さん最新作『予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる』
発売:2022年06月15日 価格:2,145円(税込)
著者プロフィール
黒木 渚 (クロキ ナギサ)
宮崎県出身。大学時代に作詞作曲を始め、ライブ活動を開始。また、文学の研究にも没頭し、大学院まで進む。2012年、「あたしの心臓あげる」でデビュー。2014年、ソロ活動を開始。2017年、『自由律』限定盤Aの付録として書き下ろされた小説「壁の鹿」を初の単行本『本性』と同時に刊行し小説家としての活動も始める。他の著書に『鉄塔おじさん』『呼吸する町』『檸檬の棘』などがある。