ゾンビ。またの名をリビングデッド。歩き回る死体。未知の要因で死体のまま蘇った人間が人々を襲い、脅威にさらされ逃げ惑いながらも、それに抗う人類の姿を描く、ホラーやパニック系のエンタテインメント作品の中でも高い人気を誇るモチーフです。

しかし発売されたばかりのこの『ゾンビ3.0』はそれだけにとどまらず、科学の力でその現象の究明を試みる人々に焦点を当てることで、「ゾンビ」というオーソドックスなフォーマットの新たな地平を拓くことに挑み、見事に結実させた意欲作です。

2012年のデビュー作『グレイメン』が日・米・韓で発売され、世界に読者を持つ石川智健さん。本書でもまた、強いオファーを受け日本のみならず韓国でも同時刊行を果たした石川さんにお話を伺ってみました。

ゾンビというのは、ちょうど良い程度の災害だと思うんです

――今回の『ゾンビ3.0』について、これから読む方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。

タイトルどおり、ゾンビを描いた作品です。

ただ、既存のゾンビ作品と違うのは、ゾンビから逃れるとか、ゾンビを倒すということよりも、ゾンビの原因を追究する科学者にスポットを当てています。サイエンスホラー×ミステリーであり、最新の科学的知見をベースに物語を構築しています。

――この作品が生まれたきっかけを教えていただけますでしょうか。

ゾンビというのは、ちょうど良い程度の災害だと思うんです。核戦争や地球外生命体の襲来などがあった場合、我々一般人は為す術がありません。その点、ゾンビならば頑張れば生き残れるレベルの災害だと言えます。そのため、人間を描くことに長けた装置だと考えています。元々ゾンビ作品が好きだったのですが、今回のコロナウイルスの感染症を経た今だからこそ、描けるものがあるのではと考えて作品を作りました。

原因を追究する物語ですので、間違いがないように膨大な文献を読み込み、実際に研究者に質問をしました

――今回の作品のご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、執筆時のエピソードをお聞かせください。

実際の科学に基づいて作品を書く必要があったので、その点は苦労しました。今までのゾンビ作品は「呪術」や「超自然現象」「謎のウイルス」といった感じでゾンビ化の原因を深く掘り下げていません。『ゾンビ3.0』は、原因を追究する物語ですので、間違いがないように膨大な文献を読み込み、実際に研究者に質問をしました。そういった下調べやディスカッションなどを通じて、今まで見えていなかった研究者像を知ることができたので、それも作品に盛り込みました。

――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。

瀬名秀明先生の『パラサイト・イヴ』がお好きな方には、間違いなく勧められると思います。実際に、瀬名先生から本作を『パラサイト・イヴ2.0だ』と言っていただきました。

今までのゾンビ作品とは一線を画する出来になっているので、ゾンビ好きはもちろん、ゾンビが苦手だという方も面白く読めると思います。

人は考えることができます。その考える力を大切にしてください

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

マテリアルを集めることです。なにが物語の構成要素になるか分かりませんので、好奇心を持って生きたほうが得だなと思います。日々、感じたことや経験したことを無下にせず、なんとなく心に留めておく生き方をしています。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

我々はコロナウイルスという強烈な体験をしています。三年前には考えられなかったことで、世界が一変しました。そして今後も、いろいろなことが起こるでしょう。そのときにどうするべきかを考えなければなりません。人は考えることができます。その考える力を大切にしてください。考える力が自分を救いますし、人を助けることにも繋がると思っています。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

四谷荒木町に『ひらづみ』というバーを作りました。作家や版元、書店員さんなども来ていただいています。交流が楽しいです。 

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

周囲の方に恵まれた小説家だなと思います。

Q:おすすめの本を教えてください!

■『パラサイト・イヴ』瀬名秀明(新潮社)

■『モンテクリスト伯』アレクサンドル・デュマ(岩波書店、ほか)

■『ジェノサイド』高野和明(KADOKAWA)


石川智健さん最新作『ゾンビ3.0』

『ゾンビ3.0』(石川智健) 講談社
 発売:2022年10月19日 価格:1,650円(税込)

著者プロフィール

著者近影(撮影/浜村達也)

石川智健(イシカワ・トモタケ)

1985年、神奈川県生まれ。2011年に日・米・中・韓の出版社が共催する「第2回ゴールデン・エレファント賞」大賞を受賞し、翌2012年に受賞作『グレイメン』(応募時タイトル「gray to men」)でデビュー。同作は日・米・韓で刊行された。2014年刊行の『エウレカの確率 経済学捜査員 伏見真守』は、経済学を絡めた斬新な警察小説として話題を集め、シリーズ化される。また2015年の『60 誤判対策室』(単行本時タイトル『60 tとfの境界線』)は2018年に連続ドラマ化されている。その他の著書に『第三者隠蔽機関』『法廷外弁護士・相楽圭 はじまりはモヒートで』『小鳥冬馬の心像』『ため息に溺れる』『キリングクラブ』『20 誤判対策室』『本と踊れば恋をする』『この色を閉じ込める』『断罪 悪は夏の底に』『いたずらにモテる刑事の捜査報告書』『私はたゆたい、私はしずむ』『闇の余白』などがある。

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